医療カイゼン 企業に学ぶトヨタが指南 医師や事務一体でミス防ぐ

品質管理など産業界のノウハウを医療現場に生かす動きが広がっている。名古屋大学病院(名古屋市)はトヨタ自動車などから講師を招き、発生した問題を「カイゼン」できる医師の育成講座を開始。患者の満足度を高めようと、サービス業に学ぶ病院もある。「なぜダメか」を繰り返し問い、解決策を探す必要があるのは医療界も同じ。一過性で終わらぬよう、職員にいかに根付かせるかも課題だ。
産業界出身の講師が指導する(名古屋市の名古屋大学病院)

「糖尿病患者へのインスリン注射でミスをなくしたい」。東海地方の病院の診療部長(60)はこう考えていた。医師の指示があいまいだったり、看護師が血糖値のデータを見誤ったりして月5~10件は投与量が不適切な事例が起きる。過去に他の病院で大量投与で死亡した患者もいる。「ひとごとではない」

■したい、ではダメ

この診療部長は名大病院が「明日の医療を担う医師」を育てるため、10月に始めた講座「ASUISHI」に参加。今月4日の講義でトヨタOBの講師は「なくしたい、ではダメ。産業界なら『撲滅』という言葉で取り組む」と指摘した。

同講座ではトヨタグループの社員やOBを招き、6カ月かけて生産現場で培われた品質管理手法を医師が学びながら、医療現場で「カイゼン」に取り組む。

まず医師が勤める病院で実際に起きた問題をテーマに設定。現在はそれぞれが看護師や事務職ら病院スタッフから意見を聞き取って要因を分析している段階で、今後、講師と一緒に対策を考えて実践する。来年3月に成果を発表する。

講師を務めるトヨタの古谷健夫・TQM推進部主査は「問題解決へのアプローチは医療現場でも使える」と話す。各工程での不具合分布を示す「ヒストグラム」など、同社が取り入れている品質改善のための七つ道具の活用を勧めている。

受講生は東北、中国地方を含む大病院の医師16人で、多くは副院長や診療部長など幹部だ。名大病院医療の質・安全管理部の安田あゆ子副部長は「本気でカイゼンに取り組もうという病院から選んだ。医療界はこれまで学んでこなかった解決法を産業界から知る必要がある」と話す。

顧客満足度を高める手法を学ぶ病院も。埼玉医科大(埼玉県毛呂山町)と付属病院3施設では2011年、サービス業などから外部講師を招いて講義を始めた。「患者と対等な立場にある、と医師らに意識付けするため」(同大学)だ。

講義は医師から事務職までのすべての職種が対象。これまでに東京ディズニーリゾートや高級ホテルの「おもてなし」の精神や、新幹線の短時間で掃除を終えるノウハウなどを学んだ。

■継続へ考課と連動

こうして得た知識や手法を病院全体に根付かせるには、地道な取り組みが必要だ。1990年代前半に製造業の品質管理手法を取り入れ始めた麻生グループの飯塚病院(福岡県飯塚市)。様々な課題への対処を報告する発表大会は今年10月で24回目を数えた。

「患者が以前にいた介護施設と事前に調整し、入院を長引かせずに移ってもらうことができた」「感染症にかかった子供のストレス軽減のため、プレールームに専用の時間帯を設けた」。発表会では5~8人で作る約20チームそれぞれの半年間の成果を評価する。

人事考課とも連動。看護主任など現場リーダーへの昇格時には、これら活動への貢献度合いを加味する。福村文雄副院長は「『現場は変われる』という意識を持ち、マネジメントに生かす必要がある」と話す。

かねて「カイゼン」にいそしむトヨタ記念病院(愛知県豊田市)でも模索は続く。スタッフの対応や治療方針の説明などについて、ほぼすべての入院患者に毎月、満足度を尋ねるアンケートを10月に始めた。岩瀬三紀院長は「患者からの評価を時系列で『見える化』し、個人ではなく、チームワークで高める風土を醸成したい」と話している。

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医療事故、年3000件超

日本医療機能評価機構のまとめによると、2014年に報告があった医療事故は3194件と前年より5%増えた。任意で集計に参加する医療機関が広がり、7年連続で増加した。うち225件は死亡事故で、患者に障害が残りうる事故も1113件あった。

事故の多くは医師や看護師など医療従事者に原因があった。確認漏れや判断ミスなどが全体の46%、知識や経験など能力不足が19%。設備機器の問題は18%だった。

業務に不慣れな異動直後は事故発生の危険が大きいようだ。医療従事者の部署配属の期間別に事故件数をみると、1年目の887件に対し、2年目は667件、3年目は505件と減っていき、10年目以降は100件を割る。職種の経験年数ごとに見てもそれほど大きな差は無かった。

(辻征弥、山崎純)

[日本経済新聞朝刊2015年11月15日付]

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