リトルプリンス　星の王子さまと私

世界中で愛されるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「星の王子さま」がアニメーション映画になった。実写ではスタンリー・ドーネン監督のミュージカル版（1974年）などがすでにあるが、すがすがしく、詩的な文体で語られる大人の童話の初のアニメ映画化は、原作のイメージを守る工夫が凝らされている。

アニメ映画『カンフー・パンダ』（2008年）のマーク・オズボーン監督は、不時着した砂漠で王子さまに会った飛行士のその後と、老いた彼が出会う孤独な少女の物語の内側に「星の王子さま」の話を組み込んだ二重構造に仕立て、両者の技法を変えている。

老飛行士と少女の物語はCGアニメ。「星の王子さま」の世界は一コマ一コマ画面を動かして撮影するストップモーション・アニメの手法を使い、原作の挿絵が動き出したような素朴な愛らしさを生み出した。

教育ママに育てられる9歳の孤独な少女は、隣の家に住む老飛行士（声・ジェフ・ブリッジス/津川雅彦）から、若い日の彼が不時着した砂漠で出会った小さな王子さまの話を聞かされ、続きが知りたくてたまらなくなった。やがて病気に倒れた老飛行士を救おうと少女は砂漠から消えた王子さまを追っておんぼろ飛行機で飛び立った。もう青年になったはずの彼は、子供の頃のことを覚えている？

かつて旅に出て戻った王子さまは、そこにいたキツネから大切なものは目に見えない、と教えられた。そう、人を思いやる気持ちや友情は目に見えない。大人は子供だったことを忘れてしまう。人には必ず別れのときが訪れる。

原作そのままの暖かな肌触りとほのかな寂寥感（せきりょうかん）に包まれた星の王子さまのその後の物語を見ながら、原作にはじめて触れた日の幸福感を思い出していた。3Dと2D、字幕版/吹き替え版で上映。1時間47分。

★★★★

（映画評論家　渡辺　祥子）

［日本経済新聞夕刊2015年11月13日付］