瞑想…うつ和らげる 心整える「マインドフルネス」

瞑想(めいそう)を習慣的に実践することで心身の健康維持に役立てる「マインドフルネス」という試みへの関心が高まっている。米グーグルやインテルなど有力企業が従業員の研修プログラムに採用したことで注目され、国内でもストレス解消のための講習や、うつ病などを治療する試みが広がってきた。

マインドフルネスは「気づいていること」「注意深いこと」といった意味だ。日本マインドフルネス学会ではマインドフルネスを「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観(み)ること」と定義している。

東京マインドフルネスセンターで瞑想する参加者(同センター提供)

東京・赤坂にある東京マインドフルネスセンター。心療内科・神経科クリニックの赤坂クリニックが運営する、マインドフルネス瞑想の実践施設だ。ここでは、うつ病や不安障害などと診断された患者が参加するプログラムと、一般向けの瞑想会をそれぞれ開いている。

患者向けのプログラムは、抗うつ薬の服用や認知行動療法など従来の治療法と併用する形で医師から瞑想を勧められた人向けで、健康保険も適用される。1回約3時間のプログラムで週に最大5回利用できる。

◇            ◇

土曜午前中に開いている患者向けプログラムを見学・体験してみた。参加者は約10人。楽な服装に着替えた後、床にストレッチ用のマットを敷いて座る。マインドフルネス瞑想にはいくつかの種類があるが、この日は前半にヨガのポーズをとりながら自身の感覚に注意を向ける「ヨガ瞑想」、後半に座禅に似た「座る瞑想」を実施した。

座る瞑想はクリニックを運営する和楽会理事長の貝谷久宣さんが指導。脚を座禅の時のような形に組んで、両手はへその下あたりの位置に重ねて親指同士を触れるギリギリのところで合わせる。目は半分閉じた状態(半眼)で床の少し先を見る。貝谷さんが鳴らす「チーン」という鈴の音を合図に瞑想に入る。

瞑想はまず、自分の呼吸に意識を集中することから始める。空気が鼻を通る感覚や、胸から腹に入り、出て行く感覚に注意を払う。普段は無意識にやっている呼吸に注意を向けることで集中を高めていく。

呼吸に集中して気分が落ち着いてくると、目や耳や皮膚など体の様々な場所にそれまで気づかなかった感覚を感じるようになる。体がムズムズしてきたり、ブーンという音が聞こえてきたり、また、仕事のことや家族のこと、遠い昔の記憶など様々な考えが、何の脈絡もなく次々と頭に浮かんでくる。

こうした雑念にどう対処しつつ瞑想を続けるかがトレーニングのポイントだ。マインドフルネス瞑想で指導されるのは、こうした感覚や思考にとらわれないために距離を置くようにして、自分が今何を経験しているかをありのままに観察できるようにすることだ。

このため、瞑想中にこうした感覚や思考にとらわれそうになったら、自分の呼吸に注意を向け直す。また、不快な感情や感覚を感じても、それを受け止めて客観的に観察するように心がける。こうしたことを最初からできる人は少ないが、瞑想を何度も繰り返すうちに、次第に熟達していくという。

瞑想は約20分で終わり、参加者が車座になって今日の瞑想で気づいたこと、うまくいったことや行かなかったことを語り合う反省会のような「シェアリング」の時間が設けられている。貝谷さんが1人ずつコメントをしてプログラムが終了する。

◇            ◇

マインドフルネスは、1970年代に米国の研究者が、仏教の瞑想をヒントに「マインドフルネスストレス低減法」を開発したのが始まりといわれる。2000年代には英国などの研究者がうつ病の治療を目的とした「マインドフルネス認知療法」を体系化した。これらがマインドフルネスを応用した臨床療法の代表格とされている。

日本にはマインドフルネスの瞑想技法は90年代に紹介され、一部の研究者に注目されていたが、臨床心理や精神科の現場で普及し始めたのは10年ころから。貝谷さんは多くの患者にマインドフルネスを指導した経験をもとに「抗うつ薬の使用を減らせるし、再発予防に効果があることは確かだ」と話す。

マインドフルネス瞑想は、うつや不安障害以外に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や摂食障害、慢性的な痛み、医療従事者などの燃え尽き症候群などに効果があると考えられている。

また、一般向けにはストレス軽減や、創造性を高めるといった能力開発の効果も報告されている。最近は、マインドフルネスについて解説した本や、スマートフォン(スマホ)のアプリ(応用ソフト)も出ており、これらを利用すれば個人で取り組むこともできる。

◇            ◇

脳の情動機能が活発に 脳科学で効用を研究

マインドフルネスとはどのような心の状態を指し、なぜストレスや精神疾患の緩和に有効とされるのだろうか。

日本マインドフルネス学会の越川房子理事長(早稲田大学文学学術院長、心理学)によると、心の状態には特定の目標に向けた意図的な「することモード」と、目標なしに現在の体験を観察する「あることモード」の2つがある。人は不安から逃れようと努力するほどかえって不安が高まるという悪循環に陥りがちで、これは「することモード」の心によって促進される。

これに対して「あることモード」の心では、こうした反応が引き起こされず、現在の状態を受け入れる能力が高まる。これがストレスや不安、うつなどの症状を軽減することにつながると考えられている。マインドフルネス瞑想による訓練を積むことによって、こうした効果が生まれることが分かっている。

マインドフルネス瞑想の効用は、脳科学の研究によっても実証されつつある。不安やうつ、苦痛などを訴える人が瞑想をすると、脳内の情動に関連している部位(前頭前皮質、へんとう体、島皮質など)の機能が活発になるという。

また、長期にわたって瞑想を続けた人はこうした脳の関連部位の厚みが増すという研究報告もある。

(編集委員 吉川和輝)

[日本経済新聞朝刊2015年11月1日付]