がん早期発見、負担軽く 血中アミノ酸濃度や線虫でも検診の有用性、周知が課題

がんの治療には早期発見が欠かせない。最近は血液内のアミノ酸の違いから、ごく早い段階に「がんのリスクあり」と把握し、治療や生活に生かす検査が定着。尿のにおいで「虫」ががんを見分ける研究も進む。国内ではがん検診の受診率がそもそも欧米に比べて低い。身体の負担を減らすなどの改善に加え、周知を図って足を運んでもらう必要がありそうだ。

年間1万2千人ががん検診を受ける東京都千代田区の三井記念病院総合健診センター。都内在住の70代男性は今年2月、「アミノインデックス」という検査で「胃がんの疑いが高い」と結果が出た。胃カメラによる精密検査の末、ごく初期のがんと判明。手術で腫瘍を摘出、完治したという。

■リスク3段階評価

この検査は味の素が4年前に始め、現在は約1千カ所の医療機関が導入している。同社が長年取り組むアミノ酸研究に基づく知見を応用。胃、肺、大腸など7種のがんについて、血中のアミノ酸濃度の違いからがんのリスクをA(リスク小)、B(中)、C(大)の3段階で評価する。

採血でがんのリスクを調べる(東京都千代田区の三井記念病院総合健診センター)

健康保険の適用外で、患者は約2万円ほどの費用を負担し、まず病院などで採血。血液は専門機関で分析され、1~2週間で担当医から結果の説明を受ける。

C(リスク大)と判定されても、がん確定ではない。例えば肺がんが疑われれば、さらにコンピューター断層撮影装置(CT)検査で調べて結論を出す。検査を手掛ける三井記念病院の山門実特任顧問は「がんの疑いの高い人をあぶり出すもの。リスクが高いと出た人は(飲酒や喫煙など)生活習慣を見直すきっかけにもなる」と指摘する。

がん検診は肺がんや乳がんであればX線撮影、胃がんであればバリウム検査など多岐にわたる。腫瘍マーカーと呼ばれる血液内の特定の物質を調べる検査もあるが、「進行が進んだステージ3、4で見つかるケースが多く、早期段階は発見しづらい」(山門氏)。

身体への負担が大きいものも。高齢男性に多い前立腺がんは腫瘍マーカー「PSA」で比較的早期の発見も可能だが、確定診断に「前立腺針生検」が必要だ。

これは麻酔後に前立腺に向け十数回も針を刺す形での精密検査で、出血だけでなく、炎症などの合併症が起きることもある。PSAで「グレー」判定の人が実際にがんと診断されるのは2割ほど。他のがんに比べ進行が遅い前立腺がんは、米国では見つかっても経過観察とすることが多く、PSAは推奨されていない。

こうした検診時の負担を大幅に削減するユニークな手法として、実験に使われる「線虫」が注目されている。九州大学の研究グループは今年3月、線虫に尿の匂いを嗅がせることで、がんの有無を判別できる技術を開発したと米科学誌に発表した。

■1滴垂らすだけ

体長が約1ミリメートルの線虫は嗅覚が犬並みとされ、嗅ぎ分けができる。がん患者は体内のがん細胞の活動などで汗や尿のにおいが健常者とは異なるとされる。

実験では線虫がいる容器に尿を1滴垂らすとがん患者の尿には線虫が集まり、健常者の尿からは離れていった。健常者を含む242人の尿で反応を調べたところ、大腸や胃、乳房のがん患者24人中23人を陽性だと判断できたという。

中には採尿時点ではがん発症が不明だった人もいた。早期発見につながるだけでなく、判定に必要な時間も1時間半程度。従来の検査に比べ、患者の身体への負担も小さい。

今後もより患者が受診しやすく、早期発見につながるような検査手法の開発が続く見通しだ。ただ国内では欧米に比べてがん検診の受診率は低く、このままでは有効に活用されないまま、患者が見逃されてしまうという懸念は減らない。

がん検診に詳しい医師で理化学研究所の中川英刀チームリーダーは「検診で早期に見つけたことで生存率がどの程度高まったのか、という結果を明示するなどして、積極的な受診を促していく必要がある」と指摘する。

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欧米より低い受診率

厚生労働省の国民生活基礎調査(2013年)によると、40~60代の男性で過去1年間に検診を受けた人の割合は肺がんが48%、胃がんが46%、大腸がんが41%。女性はいずれの受診率も男性より10ポイントほど下回った。欧米で受診率が7~8割に達する乳がん、子宮頸(けい)がんはともに30%台前半。国際的に見ても受診率は低迷している。

内閣府が1月にまとめた調査で、がん検診を受けない理由(複数回答)は「受ける時間がない」が48%で最も多かった。「費用がかかる」「がんと分かるのが怖い」「健康に自信がある」がそれぞれ30%台で続いた。政府は12年のがん対策推進基本計画で、受診率を50%にあげる目標を設定。市町村の検診費用を補助したり、受診を呼びかける小冊子を配ったりしている。

厚労省は「がんは2人に1人がかかるとされる身近な病気で、早期発見で治る可能性も高くなる。症状がなくても定期的に検査してほしい」(がん対策・健康増進課)としている。

(新井重徳、小川知世)

[日本経済新聞朝刊2015年10月25日付]

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