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わが家のパスタ、理想のアルデンテに 鍵は塩の量

2015/10/30 日本経済新聞 プラスワン

イタリア料理店で一番の楽しみはパスタ。プロの仕事は麺の仕上がりがまるで違う。あのアルデンテを何とか自宅でも再現したいと思い立ち、料理研究家に助言を求めたら「家庭のパスタは間違った作り方であることがほとんど」と聞き捨てならないことを言われた。一体なにが間違っているの?

「多くの人はパスタのゆで水の塩の量を勘違いしています」。そう言い切るのは「ロジカルクッキング」を提唱する料理研究家、水島弘史さんだ。手持ちの料理書では1人前100グラムのパスタをゆでるには水1リットルにつき小さじ1(5グラム)の塩をいれるとある。パスタの袋も同様の表記。その通りやっていると詰め寄ると「それでは水でゆでるのと変わりませんよ」と、水島さんはにんまりした表情。

■高濃度のゆで水 食感に変化促す

実際に100グラム(太さ1.7ミリ)のパスタを、水1リットルにつき小さじ1の塩で9分ゆでてみる。仕上がりはいつも通り。断面は外側がほんのり白く、芯はない。文句はないが、プロの味とは確かに違う。

袋にゆで時間を2分短縮するとアルデンテになるとあったので試すと、今度はぷつぷつ硬い芯の食感が不快。これはアルデンテとは言えまい。うーむ、ゆで時間を変えてもプロには近づけないのか?

水島さんは再びにんまり。「だから塩なんです。パスタは塩ゆでするとどう変わるかを知ることが大切」と話す。

パスタは主に水と、通常の小麦よりたんぱく質のグルテンを多く含み強い粘りを持つデュラム小麦で作られる。うどんのように塩を使っておらず、下味に塩ゆでが必要になるというのが、これまで聞いてきた塩ゆでの理由だ。

水島さんが注目するのはもう一つの作用、食感の変化。塩のナトリウムはグルテンと結合し、パスタの表面を固める効果がある。水分を吸って軟らかくなった麺内部を包み込むことで、もっちり、ぷっつりの歯応えを生むという。

肝心なのは塩の量だ。理想のアルデンテにするゆで水の塩分は2~3%以上。水1リットルにつき大さじ2(30グラム)が必要という。今までの作り方の実に6倍。試しにゆで水を味見すると、かなり塩辛い。

不安を感じつつ、とりあえずパスタをゆでてみる。すると、外側がほんのり白く、中心部にほのかに芯が残る理想的な状態に。口にすれば、プロが作ったようなぷっつりとした歯応えだ。しょっぱささえ解消できればいけるかも。

■熱湯にくぐらせ しょっぱさ解消

「そう、あとは塩気を抜けばいいんです」と水島さん。なるほど。ゆであがったパスタを別の鍋で沸かした熱湯に一瞬くぐらせると、ほどよい塩気の理想的なパスタがゆであがった。

これまでの手順より一手間かかるし、塩を大量に使うのは不経済だと感じる人も少なくないだろう。とはいえ、プロ級の食感が得られる。晴れの日や大事な人にパスタを作る際は、ぜひこのやり方でもてなしてみたいと思う。

さて、ゆで方はマスターしたが、1皿としてどう仕上げるか。「男のパスタ道」(日本経済新聞出版社)などの著書がある料理研究家、土屋敦さんに助言を求めると「パスタ本来の味を楽しむならペペロンチーノが一番」という。

ニンニクと赤トウガラシとともに熱したオリーブ油を、ゆであがったパスタとからめるだけのシンプルな1皿だ。

それなら簡単と思いきや、土屋さんは、その作り方でパスタの思わぬ新常識を伝授してくれた。まず驚いたのはオリーブ油を使わないこと。オリーブ油は温度変化に弱く、フライパンで熱するとすぐに風味が落ちるという。確かにオリーブ油で作ったソースはくどく感じることがある。

土屋流はソースはサラダ油で作り、パスタとからめる際にエキストラバージンオリーブ油をまわしかけること。試すと、オリーブ油のフレッシュな風味が感じられ、ぐっと深い味になった。

パスタとソースのからめ方にもコツがあった。家庭では一度ざるなどにあけてから、フライパンに投入する人が多いが、それでは麺とソースに温度差が生じ、うまくからまない。ゆでた鍋から直接フライパンに移せば、麺についた熱いゆで水がソースと麺をつなぐ役割も果たしてくれる。

さらに深皿に盛りつけるのもポイント。パスタは平皿を使いがちだが、それでは冷めやすい。どんぶり状の器に盛ると熱が逃げにくい。底に熱々のソースもたまり、麺が冷めても、下からかきまぜればパスタを温かく楽しめるという。なるほど。2児を抱えての食卓には、熱々料理が並ぶことが少なくなっていたが、これはナイスアイデアだ。

おまけに生パスタのような食感を楽しめる方法も教わった。乾燥パスタを1時間ほど水に漬け、鍋で3分ほどゆでる。すると、もっちり感が増し、生パスタに似た感触になる。アルデンテとは違うが、うどん好きの日本人としては覚えておきたい調理法だ。

野菜とお肉で栄養バランスも
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記者のつぶやき
■美食・健康 両立、道険し
たどりついた自称プロ級のパスタは、まさに感動の味。連日の実験につきあわせた子どもたちも「おいしい、おいしい」と、いつも以上におかわりしてくれた。
とはいえ、私自身は三日三晩パスタを食べ続けるのは、仕事とはいえ正直きつい。栄養バランスも気になる。そこで合間にじゃこやブロッコリーなどを入れて作ったが、これがイケた。パスタのバリエーションが増えたのも収穫だ。
惜しむらくは運動不足の記者(35)の体重推移。塩と油たっぷりの炭水化物は、かなりきいた。やはり美食と健康は相いれないのか。次回の企画はもう少しヘルシーな方向で考えます。
(松原礼奈)

[日経プラスワン2015年10月24日付]

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