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2020年の「勝ち組」自動車メーカー 中西孝樹著 トップアナリストの深層分析

2015/10/14 日本経済新聞 朝刊

 自動車業界アナリストの第一人者が、中長期的な視点から日本の自動車産業を展望し、各社の戦略と競争力を分析した力作である。世界の自動車産業の潮流などマクロ的視点に立った論点と、各社の戦略や経営課題などミクロ的視点を分かり易く整理している。将来の予測は、我が国の産業政策や各社が取り組むべき課題に対する著者の「処方箋」でもある。

(日本経済新聞出版社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 自動車産業は、国内就業人口の9%を雇用する基幹産業である。過去、貿易摩擦や為替変動などの苦難を幾度も乗り越え、この数年は世界経済の復調と円高の是正で、過去最高益を更新するなど絶好調に見える。国内産業の苦境を表す言葉として一時、流行した「六重苦」(円高、法人税率の高さ、労働規制など)も影を潜めている。

 しかし、著者によると、これは環境好転による「でき過ぎの追い風」によるところが大きく、日本車の世界市場シェアは今も低迷し、技術や商品力で際立った存在感を示せていない。なぜなら、(1)新車需要の新興国へのシフト、(2)クルマのコモディティー化、(3)メーカー間の競争力格差の縮小、というパラダイムシフトに十分適応できていないからだ。

 現在、クルマは社会インフラの一部として、産業横断的に技術と高付加価値を進化させる重要なステージに差し掛かっている、と著者は指摘する。クルマは、幅広い産業が国際競争力を生み出す源泉であり、グローバル市場はこの数年、企業間競争の枠を超えて国家間競争に変貌している。

 特に、欧州の自動車メーカーの変革(メガサプライヤーの育成、クルマの基本構造や設計プロセスの標準化、環境規制のスタンダード化など)は、従来の日本メーカー流モノ作りの優位性を奪いつつある。日本の自動車業界が競争力を維持するためには、こうした世界の潮流に対抗しなくてはならない。

 このような視点に立って、著者は日本の自動車8社を分析し、5年後の将来像を予測する。商品力や財務体力という「表面化している競争力」に加え、経営力やイノベーション力などの「深層の競争力」を、著者ならではの見識で様々な角度から分析している。各社それぞれの強みと弱みが歴史的背景や新車開発秘話などとともに紹介され、話題満載である。

 また、業界の枠を超えて、産業分析、企業分析とはかくあるべし、というトップアナリストの気迫に満ちた啓蒙の書としても、大いに存在感がある。

(経済評論家 小関 広洋)

[日本経済新聞朝刊2015年10月11日付]

成長力を採点! 2020年の「勝ち組」自動車メーカー

著者:中西 孝樹
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,728円(税込み)

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