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介護相談、ためらわず 職場に実情伝え理解得よう働き方の希望、具体的に

2015/10/9

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介護が必要な高齢者は600万人を超えた。今や仕事と介護の両立は誰にも起こりうる問題になった。働きながら老親を世話するには職場のサポートが欠かせない。だが自分が介護に関わっていると、勤務先の上司や同僚に話すのをためらう人は少なくない。仕事と介護の両立に役立つ上手な伝え方を探った。

帝人は今夏、グループ2社で仕事と介護の両立について調査した。老親介護による離職が社会を騒がせているにもかかわらず、介護休業や介護のための短時間勤務など、支援制度の利用は年間わずか数件にとどまる。「社内の当事者がそんなに少ないはずはない」と実態把握を目指した。

社員約2100人から集まった回答では、300人は現在もしくは過去に介護経験があった。その4割は介護しているという事実を職場で明かしていなかった。「出産・育児と違い、介護は積極的に情報を開示したがらない傾向が強い」とダイバーシティ推進室長の日高乃里子さんは話す。

職場に伝えていない社員は当然、勤務先の介護支援制度を使っていない。有給休暇をやりくりして介護を続けている。ただ、そんな自助努力は限界に達し、人知れず介護離職に至るケースもある。「退職するとき初めて実情を知ることもある。知らせてもらわなければ、会社も配慮できない」(日高さん)

介護保険に基づく要介護・支援認定者は2015年5月末時点で609万人。およそ10年で200万人増えた。働きながら介護する人は今後さらに増える見通しだ。「プライベートなこと」と話したがらない傾向があるが、明らかにする方が職場の支援も得やすく、両立もしやすい。

チューリッヒ保険はハンドブックを全社員に配布した

「父ががんで入院しました。母も要介護。今後は残業できなくなりますし、突然休むことがあるかもしれません」。チューリッヒ保険(東京・中野)財務部で働く谷川幸恵さん(56)は一昨年、上司に打ち明けた。父が母の世話をしながら暮らしていたが、父が倒れ、介護問題に直面した。

妹と相談し、2人で交代で実家に泊まりにいくことにした。実家は会社から1時間半ほど。介護休業までは必要ないが従来の働き方はできない。「先々迷惑を掛けるかもしれない。上司に隠すことは考えなかった」と話す。

やりがいを感じていたので「仕事量は同じで構わない」と伝えた。夜に残業できない分は早朝出社で補った。上司も代わりに会議に出てくれた。それでも、介護も仕事も思うようにできずに「会社を辞めようか」と漏らすことも。そんなとき上司から「休職もフレックスタイムもある。両立策を考えよう」と諭された。谷川さんは「1人で抱え込んでいたら、どうなっていたか」と打ち明ける。

仕事と介護の両立支援策を企業に指南するベネッセシニアサポート(同・新宿)法人事業部の鬼沢裕子部長は「両立するには周囲に早めに言うことが大切だ」と強調する。介護では、当事者や介護サービス事業者がやること、職場でサポートできることの3つをどう組み立てるかが重要だ。早めに勤務先に相談すれば、どんな支援を得られるかがよく分かる。「黙っていると、介護体制を整えるための選択肢が狭まる」

仕事と介護のバランスをどう取りたいのか。自分の意思を固めておくことも欠かせない。「つらい」「大変だ」と、ただ感情を訴えられても、相談を受ける方は対処に困る。働き方を変えたいのか、仕事量を減らしたいのか、勤務地を変えたいのか。具体的であるほど会社の制度の有効活用策を練りやすい。

鬼沢さんは「介護の実情を隠すことは本人と職場双方にとって不幸。介護は誰にでも起こりうる。遠慮するより『お互いさま』意識を持って対処すべきだ」と主張する。

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「個人的」意識根強く 昇進への影響 心配

労務行政研究所(東京・品川)は2014年に「介護に関するアンケート」調査を実施した。現在介護しているか、過去に介護していた20~59歳の働く男女約300人が回答。介護していると会社や上司に「相談した」人は59%で、41%は相談していなかった。

相談しなかった理由(複数回答)で最多は「なんとかやりくりすれば自分自身で解決できると考えた」(57%)。「介護していることを会社に知られたくない」(11%)も上位で、介護はあくまで個人的な問題だという考えが根強い。また少数ながら「解雇や退職勧奨される可能性がある」(10%)、「昇進・昇格や人事考課に影響が出る」(6%)など会社への不信感をうかがわせる回答もあった。

総務省調査によると介護離職者は年間10万人を超える。労働力人口が減り、仕事と介護の両立は喫緊の課題。安倍晋三首相も9月に「介護離職ゼロ」を目指すと公言した。個人の意識改革とともに、働きながら介護する人を職場全体で支える環境整備が欠かせない。

(石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2015年10月8日付]

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