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うつ病予防、企業動く 考え方変える「認知行動療法」 前向き思考でストレス軽減

2015/10/7 日本経済新聞 朝刊

社員のうつ病予防に力を入れる企業が増えてきた。中でも注目されるのは、本人の考え方を変える「認知行動療法」と呼ばれる手法。もともと治療のための療法だが、ストレスを軽減し、うつ病リスクを減らす効果があるという。今年12月には一定規模以上の企業にストレスチェックを義務付ける制度も始まる。「心の健康」を守る取り組みが急務になっている。
コニカミノルタでは、入社2年目に認知行動療法を教える研修を行う

「なぜつらいと感じたのか書き出してみましょう」「他人があなたと同じ状況ならどうアドバイスしますか」。コニカミノルタは2012年から、入社2年目の全社員を対象に認知行動療法の研修を実施している。入社3年目ごろから仕事の責任が重くなり、ストレスからメンタルの不調を訴える社員が増えるためだ。約1時間、講師のアドバイスを聞きながら認知行動療法のポイントを実践的に体験する。

■面接通じ問題把握

認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方がバランスよくできるようにする精神療法のこと。1960年代に米国で生み出された。日本でもうつ病治療の手法として徐々に広がり、10年からは保険適用も認められた。

具体的には、「仕事が思うように進まずイライラする」といった体験をもとに、気持ちの背景にどのような考え方があるのかや、どう考えれば楽になるかを整理する。1回30分から1時間程度の面接を何度も繰り返す。

以前の同社のメンタルヘルス対策は、管理職への研修が中心だった。座学などで、部下がうつにならないような接し方などを指導する。ただ実際には上司の対応に問題がなくても不調に陥る社員もいる。「管理職への教育だけでは解消しない。セルフケアも必要」(同社の統括産業医、森まき子氏)と判断し、社員を対象にした対応に踏み切った。

子会社の社員に1カ月間実行してもらったところ、うつ傾向が強かった人に改善がみられたという。

北里大学産業精神保健学の田中克俊教授は「認知行動療法は考え方を柔軟にするのが目的。認知行動療法を取り入れることでストレスを感じることを防げる」と主張する。実際、治療の場以外でのストレス対策として有効性を認めた海外の研究結果もある。

■不眠症にも効果

効果はうつ病予防だけではない。複数の企業で産業医を務める木村理砂氏が、ある大手電機メーカーの子会社で認知行動療法を行ったところ、行わなかった人と比較して、仕事のパフォーマンスへの自己評価の点数が明確に上昇したという。木村氏は「考え方がポジティブになるため、仕事にもいい影響がある」とみる。

生活習慣への効果もある。キヤノンが13年、試験的に不眠症向けの認知行動療法を行ったところ、睡眠状態が悪いと評価された83人のうち44人で睡眠が改善したという。来年からは全社的に展開していく考えだ。

ただ日本ではきちんと認知行動療法を行える産業医は決して多くはない。産業医は内科などを専門とする医師が多く、精神科を専門的に学んだ人は少ない。

精神科医でも習得には一定の研修が必要で、だれでもできるわけではない。厚生労働省から委託を受け研修事業を行う認知行動療法研修開発センター(東京・新宿)で研修を修了した医師は全国で400人程度にとどまる。北里大学の田中教授は「医師だけでなく、保健師らを活用することも検討し、広く提供したい」と話す。

◇            ◇

■ストレスチェック、12月に義務化へ 体制整備が課題に

仕事による強いストレスが原因で精神障害を発症する人は増えている。厚生労働省によると、過労や職場でのパワハラなどが理由でうつ病などの精神疾患を発症し、労災認定された人は2014年度は過去最多の497人だった。また内閣府の調査では、14年に自殺した人の1割は「仕事疲れ」など職場関連が理由だった。

こうした状況を踏まえ、国は労働安全衛生法を改正。今年12月1日から、全国の従業員50人以上の事業所を対象に、年に1度の「ストレスチェック」を義務付けた。業務の状況や職場環境、心身の健康状態を調査票を用い、医師や保健師などの専門職が把握することを求める。ストレスが高いと評価され、本人から申し出があった場合は医師による面接指導を行う。

ただ面接指導は本人の申し出があった場合に限られる。ストレスが高いにもかかわらず、評価などを気にして申し出をためらう人もいそうだ。

企業内の体制整備も課題だ。うつ病の情報発信を目的に設立された一般社団法人日本うつ病センターは10月、企業へのメンタルヘルス対策を請け負う事業を始める。保健師ら企業のスタッフ教育のほか、ストレスチェックで問題が出た従業員へのフォローや復職支援プログラムを手掛ける予定だ。

(山崎大作)

[日本経済新聞朝刊2015年10月4日付]

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