くらし&ハウス

安心・安全

発生から避難生活まで 災害を生き抜く力育む 気持ち整え・人をまとめ・信念貫き・問題に対応…

2015/10/2 日本経済新聞 夕刊

大地震や火山の噴火、豪雨に伴う洪水など日本は常に自然の猛威と向かい合わなければいけない。発生時に命を落とさないだけでなく、復興の期間中も健康を保って過ごすためには、個人の考え方や習慣も大きな影響をもつ。災害を生き抜くには何が大切なのか。防災や減災に生かそうと探る試みが出ている。

「8つの生きる力のうち、人をまとめる力が一番高かった人は手を挙げてください」

■防災教育の一環

多賀城高校は防災・減災学習で「8つの生きる力」を測定した

宮城県立多賀城高校の体育館で、講師役の佐藤翔輔東北大学助教の声が響く。同校の防災・減災学習の一環で、今年7月に開催した講演会だ。1年生280人が参加した。

講演では、東北大が取り組む「生きる力プロジェクト」で考案した「災害時の8つの生きる力」を、生徒一人ひとりに測定してもらった。アンケートの回答を点数にして友達や校長先生らと比べあった。「本人の生きる力がどんな状況なのか、楽しく理解できたようだ」(佐藤助教)

災害時には、さまざまな困難を克服する力が試される。東北大の杉浦元亮准教授や佐藤助教らは「平時から備えておくべき力は何か」を探ろうと、東日本大震災により宮城県下で被災した78人のインタビューと1412人へのアンケートを実施した。これまでの分析から、問題に対応する力や気持ちを整える力など8つの力が浮かび上がってきた。

気持ちを整える力の高い人は、津波からの避難や避難所での生活を送る課題によりうまく対処できるという。人をまとめる力は心の健康状態と、信念を貫く力は身体の健康状態と強く関係している傾向も分かった。杉浦准教授は「災害の発生から避難後の生活へと時間が経過するのに合わせて役立つ力も変わってくる」と解説する。

旅館「大鍋屋本館」(宮城県気仙沼市)を経営する熊谷浩典館主は東北大の調査に協力した1人だ。東日本大震災で津波が押し寄せる前、釣り船で沖に出て自分の命を守った。

熊谷館主は過去の津波で漁船などを失い苦労してきた人たちを見てきた。「船には予備の燃料と飲み水を蓄え、波の様子を見ながら船を出す心構えはできていた」と振り返る。地元の高校でヨット部に所属し、地域の海を熟知している点も幸いした。気持ちを整える力や問題に対応する力に優れている好例といえる。

1人で全ての力を高めることは無理だ。杉浦准教授は「自分の強さ、弱さを認識し、次の災害に備える教育に生かしていきたい」と話す。

■自発的に行動を

防災教育に詳しい群馬大学の片田敏孝教授は「自分で自分の命を守る自発的な行動力を養うことが第一だ」と強調する。地震や豪雨などの自然災害が危険だと感じても、なかなか避難行動に結び付かない。災害に関する危険情報を知らせるだけの「知識付与型の防災教育」の弊害だと、片田教授は考えている。

鬼怒川の堤防決壊などを引き起こしたこの9月の関東・東北豪雨でも、行政の避難勧告などの情報提供に頼りすぎて逃げ遅れた例が見られた。家族がばらばらでも「皆が必ず避難している」と信頼すれば逃げ遅れない。命が助かれば後で家族を探せるし、人助けもできる。片田教授は「自然の猛威にまさかはない」と繰り返し、主体的な避難を唱えている。

被災後の復興過程ではまた別の力が大切になる。仙台市健康福祉事業団の入江徳子・健康増進センター課長は「避難時には健康維持と生きがいづくりが鍵を握る。特に高齢者の場合、支え合える仲間がいることが大きな力になる」と被災者支援の体験を語る。

運動指導員でもある入江課長は市の介護予防事業に合わせ、市内で17のサポーターグループを作った。震災後はこのグループを核にボランティア活動が生まれ、行政では目の届かないきめ細やかな生活支援ができたという。

悩みは男性の参加率が低いことだ。会社勤務で仕事に精力を注ぎ地域の活動に加わった経験がないため、退職してからも関心が向かない。「男性の参加を促す仕組みを考える必要があるが、得策はまだ見つかっていない」と入江課長は話している。

(編集委員 永田好生)

[日本経済新聞夕刊2015年10月1日付]

くらし&ハウス 新着記事

ALL CHANNEL