薬の飲み過ぎ・ストレス… 「口の渇き」高齢者に増える 専門外来 生活習慣の改善指導
ドライマウスは様々な原因で唾液が少なくなり、口の中が乾燥する症状。唾液は(1)食物の消化(2)そしゃく・飲み込み(3)口腔内細菌の制御(洗浄、殺菌)(4)口腔粘膜の保護――などの役割を果たす。ドライマウスになると虫歯、歯周病のリスクが高まるほか、口の中の乾燥感・不快感や口腔カンジダ症などの感染症、味覚障害、舌の痛み、摂食・嚥下障害などを引き起こす。
鶴見大学歯学部病院(横浜市)は2002年にドライマウス外来を開設した。予約制で、年間の患者数は500~600人。国内でのドライマウス患者の正確な統計はないが、同外来を立ち上げた斎藤一郎教授は「海外の疫学調査を基に推計すると、国内の患者は800万人以上」とみる。50~60代の中高年が中心で、7~8割が女性という。
医科歯科で連携
斎藤教授が進めているのは医科歯科連携だ。ドライマウスの患者には、糖尿病や腎臓病などの病気を患っている人も多い。斎藤教授は「ドライマウス外来を歯科や内科など他の診療科にも周知して連携し、治療を受けられる病院・クリニックと患者をつなげる仕組みを作りたい」と話す。
02年には医療従事者が集まり「ドライマウス研究会」を設立した。診断・治療のガイドラインを作成したり、医療従事者向けに疾患への理解を深める講習を開いたりしている。疾患を理解するセミナーも毎年開催、会員数は4000人を超える。
会話で唾液増やす
年間約100人の新規患者が訪れる大阪歯科大病院のドライマウス外来も、院内の医科(内科、眼科、耳鼻科、放射線科)と歯科(高齢者歯科、口腔外科)が連携する。
新潟大学医歯学総合病院(新潟市)の伊藤加代子歯科医師は「初診は約1時間かけて話を聴き、再診では生活習慣の改善指導に力を入れている」という。
東京歯科大学千葉病院の井上孝院長は「ドライマウスはすぐに治るわけではなく、専門外来は症状とうまくつきあっていく指導をするところ。超高齢社会に入って患者は今後増える。お年寄りの施設では、食事の前におしゃべりをするなど唾液の量を増やす取り組みが必要だ」と指摘する。
5種以上の薬を服用 発症率大きく上昇
ドライマウスの原因は様々だが、九州大学の中村誠司教授によると、(1)唾液腺自体の機能障害によるもの(2)神経性あるいは薬物性のもの(3)全身疾患あるいは代謝性のもの――に大別できる。
唾液腺自体の機能低下では、自己免疫疾患のシェーグレン症候群が代表的だ。このほか、頭頸(けい)部への放射線治療後に生じる「放射線性」や加齢に伴い咀嚼(そしゃく)筋が低下して起きる「加齢性」などがある。
神経性・薬物性では、薬剤の副作用や心理的ストレスなどがあり、いずれも近年目立っているという。
大阪大学大学院の阪井丘芳教授は、睡眠薬、精神安定剤、抗うつ薬、利尿剤、抗アレルギー薬の服薬などとの関係を指摘。「5種類以上の薬を内服する人の副作用出現率は、4種類以下の人と比べ著しく高い」と話す。
大阪歯科大学病院の高橋一也准教授によると、受診者100人を分析したところ、症状に悩んでいた期間は平均25カ月。服用していた薬は平均4.8種類で、最も多い人は14種類飲んでいたという。新潟大学医歯学総合病院の伊藤加代子歯科医師も「注意書きに副作用として『口渇』と書かれた薬剤は700種類に達する」と話す。
「様々な要因が複合的に重なっている場合が多い。女性の患者が多いのは、ホルモンの影響が考えられる」(鶴見大学歯学部病院の斎藤一郎教授)との指摘もある。
全身性疾患・代謝性では、糖尿病、心不全、腎機能不全脱水症などが知られる。口呼吸や過呼吸による唾液の蒸発で生じる「蒸発性」もある。
専門外来などでは、問診のほか、唾液分泌量の測定、血液検査、唾液腺の画像検査などを行い、ドライマウスと診断されると、治療が始まる。症状に応じて、唾液の分泌を増やす薬剤の処方や、洗口剤、人工唾液などによる粘膜の保湿、マッサージなどによる唾液腺の刺激などが指導される。
治療薬としてはセビメリン塩酸塩水和物やピロカルピン塩酸塩が代表的だが、近年は白虎加人参湯、五苓散などの漢方が使われることもある。また東北大学の笹野高嗣教授は昆布だしを使い唾液の分泌を促す「唾液分泌促進法」で成果を上げているという。
(吉田三輪、編集委員 木村彰)
[日本経済新聞朝刊2015年9月27日付]
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