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一病息災が健康のコツ? 病気と付き合い、そこそこ元気 食事制限や運動必要

2015/9/29 日本経済新聞 朝刊

中高年以上の世代で、病気をせずに「無病息災」で健康に過ごすことは極めて難しい。しかし、生活習慣病などの経過を見守りながら、そこそこ元気に暮らす「一病息災」であれば十分可能だ。ただ、食事制限や運動に前向きに取り組む必要がある。

公益社団法人・生命科学振興会の渡辺昌理事長(74)は、国立がんセンター(現国立がん研究センター)研究所で疫学部長を務めていた1992年、糖尿病と診断された。空腹時の血糖値が260もあり、基準値の126を大きく上回っていた。「すぐに入院治療するレベルだった」と振り返る。

しかし、生活習慣の改善によるがん予防の重要性を説いていた渡辺氏は投薬主体の治療ではなく、それまでの不摂生を改めることで症状を改善しようと考えた。1日の摂取栄養量を1600キロカロリー以下に抑える、1日1万歩を歩く、週3回は泳ぐといったメニューを自分で考案して実行した。

この結果、1年で体重が78キロから65キロに落ち、血糖値も正常値に戻った。ついでに、肩こりや足の疲れなどもよくなったという。この経験をもとにして「糖尿病は薬なしで治せる」(角川書店)を執筆して2004年に刊行。その後も玄米中心の食生活を送るなどして健康を保っている。「一病息災とはこのことだ」と渡辺氏は笑う。

星ケ丘マタニティ病院(名古屋市)の近藤東臣理事長(75)は98年、職場の健康診断で初期の胃がんが見つかった。自覚症状はなかったものの、再発しやすいタイプだったので、手術による胃の全摘を余儀なくされた。3カ月にわたる入院生活で体重は70キロから49キロまで減った。ただ発病前に糖尿病、高血圧、高脂血症の気があったのに、なぜか3つの症状ともよくなったという。

近藤理事長は退院後、朝夕に30分から1時間歩く、消化のよいものを食べるといったリハビリで体力をつけた。現在も仕事を続け、月に2~3回はゴルフのプレーを楽しんでいる。05年からは同病院のウェブサイトで連載コラム「一病息災」を始めた。「無病息災はただ漠然と健康でいるだけ。一病息災は努力して健康を保っているというイメージがある」と近藤理事長は話す。

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医師が専門知識を蓄えるとともに自分の身体の状態を熟知し、処方箋を編み出すのは極端な事例かもしれない。紹介した2人のケースが他の人にそのまま当てはまるかどうかも分からない。だが、一般の人でも飲み過ぎや食べ過ぎに気をつける、こまめに体重測定する、適度な運動をするといったごく当たり前の心がけを実践するのはさほど難しいことではない。

一病息災の語源は不明だが、すでに85年の厚生白書には「『無病息災』だけを健康として狭くとらえるのではなく、『一病息災』も健康として広くとらえる意識が定着していくことが望まれる」との記述がある。最近の厚生労働白書でもこの路線を踏襲しており、一病息災は健康行政の根幹をなしている。

実際に、厚労省の国民生活基礎調査の健康に関するデータを調べると、日本人の通院者率は3割前後で、高齢化を反映して年々高まっている。高血圧、腰痛、糖尿病が主な病気だ。しかし、自分の健康状態がよい、または普通だと考える人は合わせて8割前後と、高止まりしている。これが一病息災の現実だと思われる。

逆にいえば、自分が健康だと思っているのに、職場の健康診断などで高血圧などを指摘されて戸惑うケースは多い。複十字病院糖尿病・生活習慣病センター(東京都清瀬市)の及川真一センター長は「病気をネガティブにとらえずに、次の病気を予防するための好機ととらえてほしい」と訴える。

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医療サービスも変わらざるをえない。無病息災が病気の完治を目指すモデルであるならば、完治が難しい生活習慣病には当てはまらないからだ。桜美林大学加齢・発達研究所(東京都町田市)の鈴木隆雄所長は「高齢者が病気と共存し、生活の質を維持改善する一病息災モデルを確立すべきだ」と指摘する。

50代後半の筆者は30年近く前に血液中の尿酸値が高く、痛風一歩手前の高尿酸血症と診断された。それ以来、投薬治療を受けている。2カ月に1回の通院で採血・採尿し、肝臓や腎臓の機能もチェックしており、今まで問題が起きたことはない。すこぶる健康だと感じており、一病息災を謳歌していると自分では考えているが、いかがだろうか。

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■ゲーム感覚 歩いて健康 チームで意欲高め、運動継続

歩数をデータベースに記録し、スマホで見られる(ながはま健康ウォーク)

立命館大学の野間春生教授らは昨年、文部科学省の科学研究費補助金による「一病息災を実現するヘルスツーリズム情報環境の研究」のもと、ゲーム感覚で歩行運動を継続してもらう社会実験を呼びかけた。スマートフォン(スマホ)や専用装置で歩数を記録。チームを組んで達成への意欲を高める狙いだ。

この呼びかけに呼応する形で、滋賀県長浜市は昨秋「ながはま健康ウォーク」を実施した。457人の市民が181のチームを構成し、10日で40キロ歩くことを目標にした。達成率は91%と非常に高く、「メンバーと励まし合うことが効果的だった」(野間教授)。今年も9月11日からチャレンジ期間の第1日程を実施し、189人が参加した。

同市は一病息災を後押しするため、特定保健指導で生活習慣病の恐れがあるメタボリック症候群など4項目のどれかにひっかかった対象者約500人をイベントに勧誘した。去年の参加者は23人にとどまったが、今年は11月の第3日程までに100人の参加を目指している。

(池辺豊)

[日本経済新聞朝刊2015年9月27日付]

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