体幹鍛え、腰痛予防 姿勢キープし筋肉作る

2015/9/25

暮らしの知恵

またぎっくり腰を起こしてしまった。30代で体験して以降、すっかりクセになってしまい、もはや「またか」の諦めムード。そんなとき「体幹トレーニング」という言葉が目に留まった。なんでも体幹を鍛えると腰痛予防になるらしい。「ちょっとやってみるか」、そんな気になった。

向かったのは法政大学多摩キャンパス。スポーツ医学の観点から体幹筋について研究する泉重樹・スポーツ健康学部准教授を訪ねた。体幹筋とは胴体に属する骨格筋全般を指すそうで、表層にある大きな筋肉群の「グローバル筋」と、腰椎に直接付いて一つ一つの脊椎を安定させる「ローカル筋」に分かれる。

前者には腹直筋や、脇腹を斜めに走る腹斜筋、脊柱起立筋などがあり、後者には腹部深層を横に走る腹横筋や、脊椎間を縫うように走る多裂筋、背骨と太ももの付け根をつなぐ大腰筋などがある。

■脊椎支える腹横筋 1日6分で強化

「ローカル筋は、どんな動きに対しても脊椎を正しい位置に収める天然コルセットみたいなものです」と泉さん。脊椎一つ一つがしっかりすれば、背骨全体を支えるグローバル筋もより有効に機能する。背骨や腰に一番負担がかからない自然なS字カーブを保つためには、ローカル筋を鍛えることが重要なのだ。「ぎっくり腰を予防できれば」という希望を准教授に伝えると「腹横筋のトレーニングを組んでみましょう。毎朝6分でいいですよ」と提案された。

「筋肉は意識して使う部分にのみ顕著に効果が表れる」(泉さん)。ならば腹横筋の存在くらいは確認しておきたい。「腰骨のゴリゴリした部分から指2本下に、さらに指2本分内側に指を当てて。その指を押し返すようにお腹を膨らませつつ、おへその下の丹田周辺はぐっとへこますつもりで呼吸をしてみて」

「むむむ?」と思いつつ、やってみると指の下が収縮する。「それが腹横筋です」。そして、このドローイン(腹部引き込み動作)をしながらトレーニングをこなすのだという。

まずは現状の腹横筋のレベルを知るために、超音波検査で腹部の各筋肉の厚さを測定した。次に4種の姿勢を何秒保持し続けられるかで5段階評価をし、垂直跳びの高さも測定した。これらをもとに先生の組んだメニューが、四つんばいになって片脚を伸ばす「ハンドニー」、肘と膝をついて片脚を上げる「エルボーニー」、横向きで片肘片膝をつき片脚を上げる「サイドブリッジ」の3種(写真参照)だ。それぞれの姿勢を30秒間保持し、両脚で1セット、計2セットで6分となる。

どの姿勢でも立っているときの背骨の正しいS字カーブは保つ。その姿勢のまま片脚や片腕を上げ続けなければならない。骨盤が傾いたり、腹部が下がったり、へっぴり腰になったりしてはだめ。しかも腹部全体に力を入れつつ腹横筋を絞り込み中央部をへこませる。息を止めてはならない!! 少しクラクラしていると、3日続けて1日休むペースで1カ月続けるよう指令が下った。

■ポジション迷ったらきついと思う方へ

このトレーニングの難点は1人では自分の姿を確認できないこと。本当に正しいポジションが保持できているのだろうか。コナミスポーツ&ライフのパーソナルトレーナー、谷顕真さんにこの点を相談すると「自分の感覚を磨くしかない」。鏡張りのフィットネスルームにいても、鏡を見るだけで体のバランスは崩れてしまうそうだ。「きついと感じる方が正しいポジション。30秒をプルプルと体が震えて終えるくらいがいい」。そう助言してくれた。

開始から10日ほどして気づいたことがある。ここ4年ほど運動せずに体を甘やかしてきたせいで、階段を上るのがとてもつらかった。それがなぜか階段を上りたい気分に。楽々上れるわけではないのだが、やる気がわいてくる。

19日後、泉さんを訪ねるのも3度目というとき、メニューの難度が上がった。「ハンドニー」では脚に加え腕も伸ばす。「エルボーニー」は、肘とつま先で体を支え片脚を上げる「エルボートー」にレベルアップした。このエルボートーが実にきつくて、10秒もすると全身が震え出し、30秒では息も絶え絶えというありさま。それなのに10日もすると慣れてきた。やはり鍛えるものなのだ。

32日後の最終日。泉さんにトレーニング効果を測定してもらった。ドキドキしながら超音波検査を受けると、力を入れた収縮時の腹横筋は0.8ミリ、脱力時で0.9ミリ厚くなった。「急に太くなる筋肉ではないので、成果が出たと言っていい」。4種の姿勢の保持力についてもおおむね評価が上がった。

垂直跳びは、腕を振り反動を利用した場合で1センチ、腕振りなしで2センチ伸びた。「体幹部分が安定した結果、脚の筋肉群が力を発揮しやすくなったとも考えられる」という泉先生の見立てもうれしい。よし、明日からはスクワットのような動きのあるトレーニングを加えてみるか。もっと体の変化を実感できるかもしれない。

椅子に座り、骨盤を立てたり後傾させたりを繰り返す

記者のつぶやき
■正しいS字…難しい
 「6分でOK」とはいかなかった。ぶっ続けは無理なので10分以上かかる。忙しい朝には厳しいが、おかげで体はすぐに目覚める。メニューをこなす前に骨盤を立てたり後傾させたりを15回。これはコナミスポーツ&ライフの谷さんに教えてもらった。正しい姿勢を取る準備体操になる。
 泉さんには「日常生活でも常にS字カーブを保つ意識を」とも言われた。立ったり座ったりしゃがんだりするときにも、まずお尻を突き出し太ももに力を入れる。骨盤を立てて動き出せばスクワットのトレーニングにもなるという。なるほど! ただし、なかなか難しい。意識する前に動作してしまうからだ。
(福沢淳子)

[日経プラスワン2015年9月19日付]

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