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暮らしの知恵

ローストビーフ、家庭で簡単に 低温でじっくりと

2015/9/18 日本経済新聞 プラスワン

牛の塊肉を丸ごと調理するローストビーフは食卓を彩る華。ただ、家ではうまく作れず、完成品に手を伸ばすことも。より確実においしくする調理法はないか。これからの季節、友人らを家でもてなす機会も増えそう。失敗しないローストビーフの作り方を研究してみた。

牛肉は都内のスーパーで売っていた国産牛。それを家族4人分400グラム買った。

まずはオーブンレンジを使い、付属のレシピで作った。250度で15分、160度で40分焼いたあとアルミホイルで包んで30分休ませる。完成したのは、ジューシーなホテルなどのものとは違いパサパサ。設定温度や時間は忠実に再現したのだが……。こころなしか肉の臭みも気になる。

さてどうしたものか? 友人に勧められたのが保温カバーを使った余熱調理だ。肉を鍋に入れて最初に焼き色をつけたら、後はティーポットを保温するカバーのような形状の袋にその鍋ごと入れる。はるか昔だが、肉のたんぱく質の凝固温度は58~68度と習った記憶がある。保温中の肉の中心温度を測ると60~70度程度をキープ。これならパサつきを防げるだろうか。

実際に手を動かして作業するのは最初の15分程度で、あとは放っておいてよいという。子育て中の共働き家庭にはうれしい。結果は中心部がほんのりピンク色。もう少し柔らかく、肉汁のうまさが楽しめればなおよかった。

■上手な温度管理 出来栄えを左右

料理上手な別の友人が絶賛していたのが炊飯器を使った調理法。焼き色をつけた肉をジッパー付き(冷凍)保存袋にいれて真空状態にし、炊飯器で保温する。温度管理は炊飯器にお任せで、一度入れたら放っておける。仕上がりはしっとり。染み出してくる肉汁がおいしい。専門店で売っているようなローストビーフみたいだ。なるほど、温度管理のうまさが、出来栄えにも反映するようだ。

ここまでくると、もっとおいしくつくるコツがないか知りたくなる。家庭の味を超える料理店のようなローストビーフを簡単につくることはできないか。プロに助けを請うべく科学的調理理論を提唱している水島弘史さんの料理教室をたずねた。

「家庭用のオーブンは業務用のものと違って庫内がせまく、壁からの放射熱で設定温度よりも高い温度が食材に伝わってしまう」と水島さんは説明してくれた。最初のオーブン調理でパサパサになった理由はそれか。

水島さんが勧めるのは、オーブンでも120~130度でじっくり焼くこと。低めの温度に設定してゆっくり火が伝わるようにする。こうして肉が収縮しにくくする。

さらに、プロが使うバルデという手法を教えてもらった。本来は豚の背脂で食材の表面を覆い、肉のぱさつきを防ぐ調理法。ただ、家庭で大きな背脂を手に入れるのは難しいので、サラダ油に浸したキッチンペーパーで代用する。油で覆うことで熱がほどよく伝わるだけでなく、肉のあくや臭みをペーパーが吸い取ってくれる効果もある。

塩も重要なポイントだ。レシピ本には適量、少々などと記されているが、その分量が味を左右する。適切な塩の分量は食材の重量の0.8%程度。食材は加熱することで水分が抜けるのでロースト後に食材の重量を測り、その0.8%の塩をまぶす。一般にはロースト前に塩をすり込むとされているが、これだと塩に水分を奪われ表面のぱさつきの原因になる。

■焼き色は最後で 良い香り長持ち

焼き色は最後につける。最初に高温で急速に加熱するのではたんぱく質の収縮をすすめてしまう。調理の最後に香り付け程度に焼き色をつけるのがベストだという。実際、ローストしただけでは感じなかった肉の香りがフライパンで焼き色をつけているときにふわっと立ち、時間がたっても肉の良い香りが持続した。水島さんによれば、和牛の牛脂をかぎながら鶏肉を食べると、牛肉を食べていると勘違いする人もいるという。肉の香りは味の決め手なのだ。焼き色をつけたら、ホイルに包み皿の上などで休ませる。

「勘違い」に気づかされたのがソース作り。フライパンの油は使わず、赤ワインや香味野菜などで別に作る。昔はフライパンに肉やうまみがくっついていたので、それをこそげ落として作るのが一般的だった。だが、フッ素樹脂加工の家庭用フライパンの場合、油に残っているのはあくや臭みのみ。水島さんは「鍋のあくは一生懸命とるのに、フライパンのあくをうまみとありがたがるのはおかしい」と不思議がる。今回は、塩だけで肉のうまみを味わった。

同僚に試食してもらうと、やはり水島さんの調理法による品が一番好評だった。あまり手間をかけていないのに「肉の香りがいい」「うまみがある」と、はっきり差が出た。これならシルバーウイークの来客にも自家製ローストビーフを楽しんでもらえそう。

肉の中心部は60℃前後でキープされている
重量の93%になるまで水分を飛ばす

記者のつぶやき
■お弁当にも使えそう
おいしかった水島さんの調理法を早速、他の料理に試した。ローストポークはビーフと全く同じ手法でいいという。油を浸したキッチンペーパーには肉の臭みやあくがうつっている。これを食べていたかと思うと複雑な心境。塩だけで肉本来のうまみを堪能でき、冷めてもしっとりと柔らかい。子どものお弁当にも活用できそう。
クリスマスの主役、丸鶏のローストチキンは、ぱさつきがちな胸肉の部分がしっとり仕上がる。皮の部分にこもりがちな特有のにおいも抜けて、肉のうまみをより味わえそうだ。簡単にできると思っていた家庭料理も、プロの教える手順をいくつか踏めば、驚くほど味が変わる。
(松原礼奈)

[日経プラスワン2015年9月12日付]

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