医療被曝 低減に挑む同じ検査、病院で放射線量に差 指針が目安に・機器も向上

医療機関でのエックス線やコンピューター断層撮影装置(CT)で放射線を浴びる「医療被曝(ひばく)」への関心が高まってきた。健康への影響ははっきりしないが、少しでもリスクを減らそうと関連学会がこのほど放射線量の指針を策定。個々の医療機関でも治療や検査時の放射線量を低減しようとする取り組みを始めている。

■8分の1程度に

杏林大付属病院が導入したカテーテル治療装置(東京都三鷹市)

杏林大医学部付属病院(東京都三鷹市)は8月、最新型のカテーテル治療用の機器を導入した。カテーテルと呼ばれる治療用の細い管を体内に挿入する際、エックス線で体内を透視するが、これまで使っていた装置に比べエックス線による被曝を8分の1程度に減らせるという。

カテーテルの位置を確認するためにエックス線を随時照射するが、新型は位置確認に磁気を併用し、照射回数を大幅に減らした。不整脈の治療に有効なことを示し、今後脳卒中などに適用できるとみる。同病院の似鳥俊明教授は「カテーテル治療はCT検査より患者が浴びる放射線量は多い。低減できる利点は大きい」と強調する。

同病院によると、CT検査で浴びる被曝量が0.01グレイ(放射線の吸収量を示す単位)程度なのに対し、カテーテル治療で皮膚が被曝する量は数グレイ。3~5グレイでは一過性の脱毛や皮膚が赤くなる副作用があり、5グレイ以上ではびらんの可能性もある。同病院では現在は2グレイを目安としている。

国立がん研究センター中央病院(東京・中央)では、医師と放射線技師、看護師らがミーティングし、手術や検査時の放射線量削減を話し合う。線量を低くすれば鮮明な画像が得にくくなるが、診断や治療に支障のない画像が得られるギリギリの線を探る。

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)などは、心筋梗塞に発展するリスクを磁気共鳴画像装置(MRI)で検出する手法を開発した。CTからMRIに切り替え、放射線のリスクをなくす。

医療被曝の問題は、CTなどが普及した2000年代以降指摘されてきた。ただ確実な診断とのバランスもあり、医療機関の間でも低減に対する取り組みには温度差がある。専門家によると、同じCTの検査を受けても、医療機関によって浴びる放射線量が数倍以上異なることもある。

■具体的な数値示す

個々の医療機関にとどまらず、複数の組織や学会が放射線量を適切に管理したり、基準をつくったりする動きも出始めた。

放射線医学総合研究所(放医研)や日本原子力研究開発機構などは今年1月、CTやレントゲン撮影などでどのくらいの放射線を受けたかを測るシステムの運用を始めた。撮影装置からデータを取り込み、病院や診療科の枠を超えて放射線量を測る仕組み。現在15施設が参加する。

「日本人のCT被曝は世界的にも高いと考えられている。実際の医療現場の状況を確実に把握する仕組みをつくりたい」(放医研の奥田保男室長)

日本医学放射線学会など12団体は6月、検査時の放射線量の基準を公表した。「成人が頭部をCTで検査するときの参考レベルは85ミリグレイ」など具体的に示した。とりまとめにあたった放医研放射線防護研究センターの神田玲子規制科学研究プログラムサブリーダーは「合理的に放射線量を低くする値を示した」と強調。各医療機関が参考にし、低線量化につながることを期待する。

医療機器メーカー側も被曝低減に力を入れるようになってきた。以前は検出器が患者の周囲を1回転する間にどれだけ広範囲を撮影できるかの性能を競ったが、最近は低線量化を重視するようになっている。東芝メディカルシステムズが4月に発売した機種は、最新の画像処理技術を使い、被曝線量を従来より最大8割減らしたという。

患者自身が自分が受ける放射線を把握するのは難しい。ただ例えば日本診療放射線技師会は被曝低減に取り組む医療施設を公表している。受診の前にこうした情報を参考にすることはできそうだ。

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健康被害 はっきりせず

コンピューター断層撮影装置(CT)やエックス線の検査で浴びる放射線による健康被害は「あるかどうか分からない」レベルとされる。英国の研究グループが2004年、日本人のがんの3%が医療被曝が原因との論文を医学誌に発表した。ただ研究者の間でも賛否が分かれ、「否定も肯定もできない」(放医研の神田玲子サブリーダー)という。

因果関係がはっきりしなくても、少しでも健康被害のリスクを低減しようというのが関係者の考え方だ。東京電力福島第1原発事故などで放射線に対する関心が高くなり、「患者は予想以上に敏感」(杏林大病院の似鳥俊明教授)なことも背景にある。

医療被曝に関しては、医師や放射線技師、看護師ら医療従事者にも影響が及ぶ可能性が指摘されている。脳腫瘍や白内障、不妊症などのリスクを指摘する研究者もいる。

(新井重徳)

[日本経済新聞朝刊2015年9月6日付]

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