筋肉鍛えて太りにくく 生活習慣病の予防にも

「スリムな体でいたいから筋肉はあまりつけたくない」「スポーツは趣味ではないので筋肉なんてそんなに必要ない」――。そう思っている人は要注意。実は筋肉があった方がやせやすくなり、筋量を増やすことで生活習慣病の予防にもつながることが分かってきた。

一般的に自分の筋力が落ちたことを実感するのは50歳代ぐらいからだ。だが、「実は30歳くらいをピークにして、徐々に筋肉は減っている」と話すのは、筋生理学を専門とする東京大学大学院の石井直方教授。「特に成長期にダイエット目的で食事量を減らし、しかも運動不足だった人は筋力が衰えている」という。

筋力は加齢とともに低下する。筋力が低下すると疲れやすくなるので体を動かさなくなる。動かさないとさらに筋力が低下するという、負のスパイラルに陥りやすい。最近は職場でパソコンに向かい、じっと固まった姿勢でいる時間が増えている。多くの筋肉が使われずに弱まっていく。

■むくみの原因に

ただ、筋力が下がっても、日常生活に支障が出ていなければ問題だとは気づきにくい。そこが勘違いのポイントだ。実は筋力低下が原因で体調不良を招いている可能性がある。筋力低下によって起こる不調の代表が冷えとむくみ。筋力が落ちると、静脈の血液を心臓へ戻す筋肉のポンプ作用が落ち、新陳代謝が抑えられ、冷えやむくみにつながる。

また、筋力が下がって使わないようになると、体内の糖が消費されにくくなり、食後などに血糖値が高めの状態が続く。こういったことが続くと脂肪の蓄積や血管の老化が進み、やがて糖尿病や心臓病などにつながる。

逆に「運動習慣があると、糖をより代謝しやすい筋肉に変わっていく」(糖や脂質の代謝に詳しい筑波大学付属病院の正田純一教授)。運動を続けることで、「糖を筋肉中に引き込むたんぱく質『GLUT―4』が筋表面に集まり、より血糖が下がりやすくなる。血糖の調整に不可欠なインスリンの働きも高まる」(正田教授)という。

食事で糖質制限をする人も多いが、食事だけでなく継続した運動も血糖値を下げるのに重要なようだ。

■適切な運動を

最近注目されているのが、筋肉自身が出しているとされる生理活性物質。例えば「イリシン」は脂肪をため込む白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変え、体に脂肪をためにくくすると期待されている。また、「IL―6」は脂肪細胞の中で脂肪分解を進めたり、筋肉への糖の取り込み量を増やしたりする。

これらをうまく働かせるためにも、運動で筋肉を使ったり、つけたりすることが欠かせない。とはいえ、無理な運動は長続きせず逆効果になることも。自分に合ったレベルの運動をすることが肝心だ。まず自分の筋力がどのレベルにあるのかを知っておく必要がある。

筋力を決める一つの要素が筋量だ。研究では画像診断で筋肉の断面積から判断するのが一般的だが、「家庭なら、体組成も測れる体重計で出てくる筋肉量も目安になる。日頃から確認するといい」と正田教授。

「量だけでなく、筋肉の機能そのものが衰えていないかどうかを知ることも大切」と指摘するのは、医薬基盤・健康・栄養研究所健康増進研究部の宮地元彦部長だ。筋肉量はあっても、硬く凝り固まっていたのではうまく働くことができない。

機能も含めて筋力を知るには、「日常の動作で確かめるといい」(加齢と体力の関係を研究する筑波大学大学院の田中喜代次教授)。例えば歩くスピードも目安になる。誰かと一緒に歩いていて、「ゆっくりのつもりはないのに自分だけ遅れる人は要注意」(石井教授)。

もっと詳しく自分の筋肉について知りたいという人のために、田中教授が開発したのが「筋肉年齢」だ。筋肉年齢は瞬発力や持久力といった筋力と、その筋力をスムーズに発揮するのに必要な柔軟性を掛け合わせて算出する。その測定法の一部が上図に示した4つ。

筋肉の衰えが目立つ女性向けで、柔軟性では関節の可動域が広いかどうか、周辺の筋肉が凝っていないかどうかなどがポイントとなる。

「個々人の体格の違いもあるので、筋肉年齢はあくまで目安」(田中教授)だが、算出した筋肉年齢が、実際の自分の年齢より3歳以上、上回っていたなら、運動を始めるなどの対策を考えたほうがいいだろう。

(日経ヘルス編集部)

[日経プラスワン2015年9月5日付]

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