新国立競技場、なぜ建設計画見直しに

イチ子お姉さん 2020年の東京五輪で使う新国立競技場の建設が大変なことになっているの。お金がかかりすぎると反対され、全面的に計画を見直すのよ。
からすけ オリンピックまであと5年を切ったよ。今から見直して間に合うのかな。不安だよ。いったい何があって、やり直しになっちゃったの?
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五輪 オリンピック。スポーツで最大の国際競技大会。東京五輪は2020年7月24日~8月9日に開催予定。
メーンスタジアム 五輪の中心競技場。旧計画では開・閉会式と陸上競技、サッカーやラグビーの決勝も実施予定だった。

特殊なデザイン、コスト膨らむ

イチ子 夏の五輪(キーワード)・パラリンピックが東京で開かれるのは知ってるよね。この五輪で使うメーンスタジアム(キーワード)の建設計画が今、宙に浮(う)いているの。

からすけ マラソンのゴールになる場所?

イチ子 そう。開会式や閉会式、陸上競技などに使うの。五輪の「顔」みたいな場所ね。五輪が東京で開かれるのは2回目なのだけれど、前回の1964年五輪で使った国立競技場が古くなったので、建て直すことにしたの。古い国立競技場はすでにもう取り壊(こわ)されちゃったわ。

からすけ え? 古いものを壊したのに、新しい競技場の計画がダメになっちゃったの? まずいじゃん。何が起きたの?

イチ子 まあ聞いてよ。新国立競技場の工事は10月に始まる予定だったわ。でも7月に安倍晋三(しんぞう)首相が「白紙に戻(もど)す」と表明したの。理由は簡単。造るのにお金がかかりすぎるので国民が反発したのよ。6月末に出た最終計画案では2520億円も必要だったの。

からすけ 2520億円かあ。イメージできない。

イチ子 総工費が約650億円の東京スカイツリーなら約4基分ね。過去の海外の五輪会場との比較(ひかく)ならもっとピンとくるかも。当時のお金の価値でみると、08年の北京五輪のメーン会場は約550億円で、12年のロンドン五輪は約600億円だったの。ロンドン五輪の4倍ってどう思う?

からすけ それは高すぎるね。でもどうしてそんなにお金がかかる計画になっちゃったの?

イチ子 新国立競技場を造ると決めてから、世界中から案を募(つの)って、最終的にイラク出身の女性建築家、ザハ・ハディドさんのデザインを選んだの。流れるようなアーチ型の屋根が目玉で、珍しくて美しいと評判になったわ。ただ、1300億円くらいで造れる案として募集(ぼしゅう)したのに、ザハさんの案を選んだ後に計算したら、3000億円以上かかるとわかったの。

からすけ そんなに!?

イチ子 さすがに高すぎると政府も思ったらしく、いったんは面積を小さくして1625億円まで工事費を減らす案を出したわ。でも工事をする会社から「やっぱり3000億円はかかる」という声が出たの。

からすけ 何にそんなにお金がかかるの?

イチ子 屋根を支えるための「キールアーチ」と呼ばれる、全長370メートルもある2本の巨大(きょだい)な鉄骨が特に高くつくみたい。屋根部分に使う鉄骨は約2万トンで、東京タワーなら5本分になるわ。計画時よりも鉄などの値段が高くなるなど、材料費もかさんだようよ。巨大なアーチを造るのは時間がかかるし、技術的にも大変よ。景気回復で工事をする人も不足して、人件費が高くなったことも理由に挙げられるわね。

からすけ 景気にも左右されちゃったんだ。

批判噴出で近く新計画

イチ子 結局、政府は6月末に2520億円でゴーサインを出したの。でも、国民にとっては「寝耳(ねみみ)に水」みたいな金額よね。よくわからないうちに巨額のお金が投じられることがわかって、怒(いか)りが爆発(ばくはつ)したの。で、安倍首相の「白紙撤回(てっかい)宣言」になったわけ。

からすけ じゃあこれからどうなるの。5年後の東京五輪に間に合うの?

イチ子 政府は近く、新たな計画をまとめて、なるべく早く工事を始めたい考えよ。五輪に間に合わせるためにね。

からすけ どんな案になりそうなの?

イチ子 どんな天気でも使えるけれど、その分お金がかかる開閉式屋根を造るのをやめたらどうか、などの案が挙がっているわ。国民にもインターネットを通じて意見を募(つの)っているの。将来、大人になったからすけたちに「こんなの造らなきゃよかったのに」と思われないためにも、現代の日本にふさわしいメーンスタジアムについて、もう一度みんなで考える機会にしたいわね。

■今の時代の象徴に

渋谷教育学園渋谷中学高等学校の真仁田智先生の話 70年前のきょう、日本の戦争が終わりました。この日を境に、明治維新(いしん)から進めた富国強兵による近代化の時代が終わり、民主的で平和な国家へ歩み始めたのです。
新国立競技場の建設予定地は、この2つの時代を象徴(しょうちょう)する場所でもありました。戦中の1943年には、20歳以上の大学生が入隊・出征(しゅっせい)する学徒出陣壮行会(がくとしゅつじんそうこうかい)が行われました。1964年の東京五輪では開・閉会式が行われ、経済の成長と国際社会の一員になったことを人々は実感したのです。
2020年東京五輪も、今の時代を象徴する大会となるはずです。東日本大震災からの復興、多様性のあるグローバル化、環境(かんきょう)に配慮(はいりょ)した持続可能な運営など、何か自分ができることを探し、参加・協力してみませんか。あなたが取り組んだことは、五輪後も心に残る財産となるはずです。
今週のニュースなテストの答え 問1=毛沢東、問2=鹿児島

[日経プラスワン2015年8月15日付]

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