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歌舞伎座8月公演 巳之助の舞踊、目をみはる成長

2015/8/19 日本経済新聞 夕刊

八月恒例の納涼歌舞伎。勘三郎・三津五郎というリーダーを失ったが残ったメンバーそれぞれに成長を見せる。

三津五郎に捧ぐと詞書きのついた舞踊二題を巳之助が踊るのが眼目の一。「棒しばり」は勘九郎と親同士の名コンビを再現。亡父が復活した「芋掘(いもほり)長者」は橋之助と組んで遜色を感じさせない。他の役も含めこの一年間の急成長は目を瞠(みは)る。もう一篇(ぺん)の舞踊「京人形」は勘九郎・七之助兄弟。七之助が生けるが如き人形さながらのはまり役だ。

「おちくぼ物語」は平安文学に題材を取った宇野信夫の作。継子いじめの歌舞伎版シンデレラだが、典雅且(か)つユーモラスなタッチで口当たりよく面白い。七之助のおちくぼの君はじめ出演者みな水を得た魚のよう。とりわけ隼人の左近少将が成長著しい。

小幡欣治作「祇園恋づくし」は古典落語「祇園会」から題材を得た軽快な喜劇。勘九郎の江戸の指物職人と扇雀が二役を替わる京の茶道具商夫婦を中心に、浮気やらまじめな恋やら男女の機微が描かれる。ここでも出演者がみな溌剌(はつらつ)、快適に運ぶテンポが快いが、とりわけ扇雀のひと皮剥けた役者ぶりが目を引く。

こうした中で橋之助が今月唯一の古典「ひらかな盛衰記」の「逆櫓(さかろ)」に取り組む。第一線級に続く丸本時代物の選手として期待が大きいだけに、評価が自(おの)ずと厳しくなるが、良い点は、英雄役者としての骨格の大きさと量感、船頭松右衛門にやつした世話の世界から樋口兼光という本体を顕(あらわ)す時代の世界へと飛躍できるロマン性に満ちた芸容。難点はセリフの音遣いが不充分なために単調に陥りがちなこと。更なる研鑚(けんさん)を期待しよう。弥十郎の権四郎、扇雀のお筆が好演。児太郎のおよしはまだ荷が重いが素質のよさが光る。28日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

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