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処方箋 検査値載せます 薬剤師のチェック機能 強化 患者の状態 確認の手掛かりに

2015/8/12 日本経済新聞 朝刊

医療機関で診察を受けた後、薬局で薬をもらうために発行される処方箋。薬の名前と量だけが書かれていることが多いが、診察時の検査値を表示する試みが各地で始まった。薬のプロである薬剤師が、処方された薬や用量が適切かを確認できるようにするのが狙いだ。
処方箋に書かれた検査値を見ながら、患者に服薬指導を行う(京都市ののぞみ薬局京大病院前店)

「腎機能が低下しているようですね。このままお薬を出してよいか、先生に確認してみます」。のぞみ薬局京大病院前店(京都市)は、訪れた患者にこんな質問をすることがある。

■「安心して渡せる」

同薬局に近い京都大病院は13年から、院外向けの処方箋に腎臓や肝臓の機能など13項目の検査値を印字している。以前は患者との会話で体調や副作用のリスクを確認するしかなかったが、「安心して患者さんに薬を渡せるようになった」と同薬局の大垣聡彦管理薬剤師は話す。

京都大病院の松原和夫薬剤部長は「医師は薬の効果を考えて処方し、薬剤師は副作用を考えるのが得意。しかしこれまで薬剤師は患者の体調を知るすべさえなかった」と、いち早く取り組みを始めた狙いを説明する。

京都大病院ではこれまで、周辺の薬局に電子カルテの閲覧を認めていた。ただ個人情報保護の観点から手続きが煩雑で、あまり利用されてこなかった。処方箋なら手続きも不要で、薬剤師は必ず目を通す。

医薬品医療機器総合機構(東京・千代田)が昨年12月から今年3月にかけて行った調査によると、京都大病院のように検査値を処方箋に印字・記載している施設は5.1%あった。

千葉大病院は昨年10月、院外処方箋に検査値と、添付文書に禁忌・警告の記載のある薬剤と注意すべきポイントを掲載するようにした。11年以降、入院患者向けに院内に発行する処方箋には検査値や添付文書で気を付けるべき薬剤を掲載してきた。薬剤部の職員がつくったそのシステムを、院外処方箋にも活用した。

実際、検査値を踏まえて薬剤師が医師に処方を確認するケースは今年6月末までの8カ月間に400件あった。うち85件で、処方が変更されたという。石井伊都子薬剤部長は「今後はこのシステムを別の医療機関でも使えるように改良したい」と期待する。

医療現場では医師の判断にモノを言いにくい風潮もある。検査値の表示は、医師の処方に従って機械的に薬を渡すのではなく、適切かどうかチェックする本来の役割を薬剤師に促すものだ。ただ実際には及び腰の薬剤師も少なくないようで、ある病院では導入時、地元薬剤師会から「責任が重くなるのでやりたくない」との声があがったという。

千葉大病院では薬剤師向けの研修を実施するとともに、製薬企業の医薬情報担当者(MR)を通じて離れた薬局とも情報が共有できるようにした。薬剤師側の抵抗感も薄くなり、最近では千葉大病院以外の処方箋を持ち込んだ患者にも、検査値が記録された紙を持っていないか聞くようになったという。石井薬剤部長は「薬剤師の教育も変わっていくはずだ」と期待を込める。

薬剤師側から病院側に要望するケースも出ている。6月から検査値の表示を始めた九州大病院(福岡市)。福岡市薬剤師会など福岡県内の5薬剤師会から要望を受け、薬剤師会と病院が合同で勉強会を開くなどして準備を進めてきた。福岡市薬剤師会の担当者は「表示に前向きな病院は多い。九州大病院以外にも広げたい」と意気込む。

■導入コスト課題

課題は導入時のコスト。病院内のシステムを再構築する必要があるが、処方箋の発行費用は診療報酬で決まっており、増えたコスト分を転嫁できるわけではない。京大病院では処方箋の用紙を見直すことでシステムの改修費用を捻出したという。

「すぐにでも始めたいがシステム改修のタイミングでなければ難しい」(聖マリアンナ医科大病院の増原慶壮参与)という医療機関は多い。普及に向け、国の後押しなども求められそうだ。

◇            ◇

■進む医薬分業 副作用リスク低減へ期待

医師は患者の症状を診察して効果のある薬を選ぶが、必ずしも副作用やほかの薬との飲み合わせまで注意しきれないことがある。副作用のリスクなどを下げるためには、医師が処方した薬を薬剤師がチェックすることが必要で、それぞれが独立して行う「医薬分業」が進められてきた。

日本で本格的に普及し始めたのは1970年代からだ。日本薬剤師会によると、2014年度には68.7%の外来処方箋が病院外の薬局で調剤されている。

ただ「医療機関に近い薬局で医師が言う通りに調剤を行うだけで、ほとんどチェック機能が果たされていない」という批判は少なくない。医師の処方に疑問や不明点がある場合、薬剤師が医師に問い合わせをする「疑義照会」の制度もあるが、十分に活用できているとは言い難いのが実情だ。

(山崎大作、吉田三輪)

[日本経済新聞朝刊2015年8月9日付]

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