中国グローバル化の深層 デイビッド・シャンボー著「未完の大国」の影響力の弱さ

2015/8/12

リチャード・ニクソンは米大統領就任前の1967年に「最も優秀な民族になり得る10億人もの人々がいつまでも怒り続け、孤立していられるような場所はこの小さな惑星にはない」とフォーリン・アフェアーズ誌に語った。その後、彼は中国を国際社会へと招き入れたが、今や、驚異であれ脅威の対象としてであれ、台頭する中国への関心はこの惑星に満ち満ちている。

(加藤祐子訳、朝日新聞出版・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 前世紀は「米国の世紀」ともいわれたが、21世紀は「中国の世紀」になるのだろうか。かつてナポレオンは「中国が目覚める時、世界は震撼(しんかん)するだろう」と語ったという。この予言通り、目覚めた中国が世界を揺るがしているように見える今日、どのような影響を世界に与えているのか。そして、中国は本当に「世界の大国(グローバル・パワー)」になったのか。

 こうした大きな問いに挑み、5年の歳月をかけて世に問うたのが2013年に原著が刊行された本書である。著者は、政治・外交、経済、安全保障、文化、自己認識など各分野における中国の国際的プレゼンスを俎上(そじょう)に載せ、綿密で膨大なデータも提示。その上で、大国としての中国の力を構成する要素は意外なほど弱く、その影響力も限定されていると喝破する。

 さらに著者は、中国には他国のひとびとをひきつける磁石、ソフトパワー(「軟実力」)が乏しいとも指摘する。中国自身が世界的リーダーとなる準備ができておらず、ミドルパワーないし地域大国としか見なすことができないというのが著者の見立てで、副題にも示される通り、中国を「未完の大国」(パーシャル・パワー)と結論付ける。

 かつて中国大使も取り沙汰された著者は、今年初め、中国外交学院から米国の「知中派」学者のトップ3にも選ばれた手練の中国学者だ。今春には、米ワシントン・ポスト紙に共産党支配の最終段階が迫っているとの「中国崩壊論」を寄せ、にわかに注目を浴びた。これまでの著作では、中国の台頭に期待を寄せ、党の適応能力も評価してきただけに、著者のこの“翻身”は中国でも大きな反響を呼んだ。だが、本書では、創造性を封じ込める政治体制こそ中国がソフトパワーを欠く一因だと指摘しており、原著の執筆時点から著者の立場は変わってはいないようにもみえる。

 大国としては「未完」であったとしても、中国とどう向き合うべきかは、日本にとって喫緊の課題である。本書がそのための多くの検討素材を提供してくれることは間違いない。

(法政大学教授 菱田 雅晴)

[日本経済新聞朝刊2015年8月9日付]

中国グローバル化の深層 「未完の大国」が世界を変える (朝日選書)

著者:デイビッド・シャンボー
出版:朝日新聞出版
価格:1,944円(税込み)