夏こそ日本酒、酒器はどう選ぶ?
ガラス、香りがくっきり
「まるで満天の星空のような杯。お酒を注ぐといろんな景色が見えてきて、酒器の表情の豊かさに感動する」。会社員の山本優子さん(40)は、日本酒好きの女性が集まる、東京の神楽坂の和酒会席「ふしきの」(東京・新宿)を定期的に訪れる。
9人で満席になる隠れ家的な店。コース料理一品一品それぞれに合う日本酒と酒器を選んでくれるのは、店主の宮下祐輔さんだ。数万円もする作家ものの酒器が惜しげもなく供される。カラフルな切子ガラスや磁器、陶器など素材も形も様々で、思わず目移りする。
酒器の選び方に興味を持った山本さんは、店主の宮下さんが不定期に開く酒器セミナーにも参加している。器の違いが酒の味わいにどう影響するかを学び、「ますます日本酒に魅せられた」と話す。
この夏、度数を抑えつつリンゴ酸などで酸度を上げた白ワインタイプや、オンザロック向きの無ろ過生原酒など様々な日本酒が登場している。「夏限定酒を出さない蔵はないほど」(宮下さん)。まさに冷酒で取る夏の涼だ。そんな一杯には「見た目に涼しいガラスや磁器の酒器が合う」と宮下さんは薦める。
酒器の効果は見た目の美しさだけなのだろうか。酒器と味覚について詳しい飲食店日本酒提供者協会の花岡賢理事長に話を聞くと、素材によって味の感じ方が変わってくるという。「味も香りもくっきり感じ取れるのがガラス。逆に柔らかく感じるのが陶器で、磁器はその中間にあたる」(花岡さん)
薄いガラス酒器は、精米度合いが高く雑味の少ない大吟醸のような繊細な味に向く。濃い味の酒をその器で飲むと、一献一献と進めるうちに疲れてくる場合もある。「手でつまむだけで割れそうな極薄ガラスは、体形をくっきり目立たせるタイトドレスのよう。酒の長所も短所もあらわになる」と花岡さんは例える。逆に磁器は体形をカバーし、すらっと見せてくれる着物のようだという。
器の形状も味を左右
味は器の形によっても違ってくる。ポイントの一つは口径の大きさだ。「大きいほど味も香りも強く感じる」と花岡さん。口径の大きな酒器を口元に持ってくると、まず香りが広がり、口をつけると酒が左右に広く舌に触れ、口中に広がるからだ。鼻に抜ける香りを十分に感じられる。
口径が小さく細長い器の場合は、酒が直線的に口の中に入る。喉を流れる速度もあり、日本酒の甘みを抑えてスッキリと飲める。
外食店の中には、日本酒をワイングラスで飲ませる店も増えている。そんな店で夏に冷えた日本酒を爽快に飲みたいなら、「ワイングラスよりも、スリムなシャンパン用フルートグラスの方がお薦め」と花岡さんは話す。
同じ1本の酒を形の違う器で飲み比べるのも面白い。カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市)が発売する磁器「一献盃(いっこんはい)」には、ラッパ型やストレート型など4種類がある。ラッパ型は香りが広がりやすく、ストレート型はスッキリ飲めるなど、違いが際立つ。
酒の種類に合わせ、4つの酒器を使い分けることもできる。「吟醸・大吟醸の良さを引き立てるのはラッパ型。本醸造ならストレート型、純米酒はワングリ型、山廃・生酛(きもと)ならツボミ型」(小平健一工場長)という。
「酒器が小さければ素材や形が味覚に与える影響は小さい。デザイン重視で選ぶといい」と花岡さんは助言する。
猛暑の夜、好みの酒器に澄んだ日本酒を注ぎ、涼を楽しんでみてはいかが。
(福沢淳子)
[日経プラスワン2015年8月8日付]
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