宮城・ホヤ 一口で5つの味とれたてほやほやが命

甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の5つの味が楽しめるといわれる珍しい食材、ホヤ(マボヤ)。見た目から「海のパイナップル」の異名を持つ。独特の風味で好き嫌いは分かれるが、日本一の生産地である宮城県では夏の味覚として親しまれている。新鮮なまま刺し身で食べるのが一般的だが、様々な加工品も売り出され、酒のつまみとして左党の人気も高い。

県内有数のホヤの産地として知られる牡鹿半島の鮫浦(さめのうら)湾。7月下旬、湾に面する前網浜(石巻市)を、ホヤ漁師歴30年の鈴木健之さん(48)の船で出発した。

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海中からホヤを引き揚げる(牡鹿半島の鮫浦湾)

海から振り返ると間近に山がそびえる三陸海岸特有の風景が広がる。出発して5分、養殖地点に到着した。船のクレーンで海中につるされた10メートルのロープを引き揚げると、鮮やかな赤が特徴的なホヤの塊が現れた。鈴木さんは「今年は少し小ぶりだけど、味はおいしいね」と笑顔で話す。

鮫浦湾には山から栄養たっぷりの淡水が流れ込み海水と絶妙に混じり合い、おいしいホヤができるという。鈴木さんは「沖合に出すぎるとしょっぱくなるし、淡水が強いと白っぽいホヤになる」と話す。収穫は例年3月頃から始まり、5~8月の夏に最盛期を迎える。

宮城県では南は牡鹿半島、北は気仙沼湾あたりまでが主な産地となっている。農林水産省の統計によると宮城県の2010年の生産量は8663トンと全国の84%を占める。東日本大震災で一時は生産がストップしたが、14年は4100トンにまで戻り、今年はさらなる回復を見込む。

「ホヤは鮮度が命」。鈴木さんは断言する。収穫して数日経過すると風味が格段に落ちる。新鮮なホヤを味わおうと、仙台市内の居酒屋「蔵の庄 一番町本店」を訪れた。

まずは小沼善晃調理長(40)にさばき方を教わった。入水孔、出水孔と呼ばれる頭部の2つの突起物を切り落とす。そして縦に包丁を入れ、殻から身をはがす。身の黒い部分(肝臓)などを取り除き、軽く水洗いする。

人気メニュー「ほや造り」を注文した。その日は朝にとれたばかりの石巻産。殻の上に盛りつけられたホヤ刺しが運ばれてくる。しょうゆでまずは一口。コリコリしていて歯応えがしっかりしている。

蔵の庄 一番町本店の「ほや造り」
新鮮なホヤをさばいてつくる

最初は塩味に加え軽い苦味を感じたが、かむほど甘味とうま味が増してくる。ほのかな酸味もあり奥深い味わいだ。

「水をどうぞ」と小沼調理長に薦められた。飲むと不思議なことに、爽やかな甘味が口の中いっぱいに広がった。ホヤは酒に合うといわれるのはこのためだという。

女川町ではちょっと変わった食べ方があると聞き、中華料理店「味の館 金華楼」を訪ねた。鈴木康仁店長(43)は「家庭や店ごとに味付けが少しずつ違い、うちはしょうゆも使います」と、ゆで卵をホヤの身で包み甘辛く煮た「ホヤたまご」を紹介してくれた。肉厚の身に甘辛のたれが染み込み、卵の黄身も加わってホヤ独特の風味がマイルドになって食べやすい。

県内では様々な加工品も製造されている。三陸オーシャン(仙台市)では、ジャーキーや姿焼き、塩辛など10商品以上をそろえる。同社商品のパッケージには「R30 立年以上」との注意書きがつく。立年(30歳)以上になってからやっと、ホヤの味わいがわかるという意味を込めた。

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「ホヤおやじ」の愛称を持つ木村達男社長(63)は「年齢指定をつけることで逆に食べてみようかという興味もわく」と笑う。26歳の筆者は基準をクリアしていないが、ホヤジャーキーをいただく。かむごとに、じわーっとうまみと磯の香りが口に広がる。

関係者が今最も頭を悩ますのが、韓国による水産物の禁輸措置だ。実は韓国でのホヤの人気は日本以上。宮城県によると、震災前は県産ホヤの6~7割が韓国向けに輸出されていたという。震災から生産量は回復してきているが厳しい状況はなお続く。

仙台市では6日から夏の風物詩「仙台七夕まつり」が始まる。仙台を訪れ七夕を楽しんだ後、酒と一緒にホヤを食べてみてはいかがだろうか。震災から立ち直ろうとしている漁師たちの後押しにもなる。

<マメ知識>伊達政宗も好んだ
ホヤ食の歴史は古く、平安時代の法令集「延喜式」にその名が記される。仙台藩主、伊達政宗もホヤを好んだようだ。伊達家の正月料理にはホヤのお吸い物が出されたという。
昔から食されてきた背景には、栄養の高さもあるかもしれない。夏のホヤには体力増進や肝機能を高めるグリコーゲン、血中コレステロールを低下させて生活習慣病予防になるタウリンが豊富に含まれるほか、ミネラルの亜鉛も摂取できる。夏ばてにも効果がありそうだ。

(仙台支局 朝比奈宏)

[日本経済新聞夕刊2015年8月4日付]

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