スポーツ医学、健康に一役 運動療法に強み生活習慣病予防に 医師、広い知識養う必要

けがをした運動選手の治療・リハビリを対象にしたスポーツ医学。その技術を、高齢者ら一般患者の治療に役立てようという取り組みが広がりをみせている。足腰の痛みなど整形外科の領域だけでなく、生活習慣病の予防や治療にも乗り出している。

「アントラーズのトップチームに行っているメディカルをそのまま地元の皆さんに提供したい」。3日、Jリーグ・鹿島アントラーズの本拠地、カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)に開業するのが整形外科の「アントラーズスポーツクリニック」。鹿島のチームドクターを務める山藤崇医師らが地域住民を診察する。

■技術を地元に還元

クリニックは院長含め医師7人で、うち5人がアントラーズのチームドクター。商社のイービストレード(東京・千代田)がクラブや筑波大などと協力して運営する。最大の特徴は高性能の磁気共鳴画像装置(MRI)。山藤医師は「靱帯、軟骨、筋肉の損傷が詳細に分かり、診断の精度が上がる」と話す。

アントラーズのチームドクターは普段、選手の治療や身体のケアなどを担当している。クリニックの開設は、高額な医療機器を有効活用する狙いとともに、アスリートのケアや治療で培った技術を地域に還元する狙いもある。診療はスポーツに取り組む学生や社会人のけがを想定するが、足腰に痛みを抱える中高年も重要なターゲットだ。

例えば、膝の痛みで変形性膝関節症と診断された高齢女性。一般的な整形外科では注射と痛み止めで終わる。同クリニックではMRIで軟骨のすり減り具合を詳しく調べ、患部の悪化を防ぐにはどこの筋肉を鍛えるべきか、患者ごとに運動プログラムを提供する。「けがした選手がピッチに戻るまでのプロセスを応用する」と山藤医師。

スポーツ医学は整形外科の領域の一つとして発展した。靱帯損傷や肉離れなどの故障に対し、運動によって痛みを和らげたり治したりする「運動療法」のほか、傷口が小さい内視鏡手術の一種、関節鏡手術を手がける。治療だけでなく、運動機能の低下を抑えながら早期復帰が求められる運動選手に対応するためだ。

亀田総合病院(千葉県鴨川市)は2009年、整形外科から独立してスポーツ医学科を設けた。アスリート以外の患者が8~9割を占め、うち半分は運動をほとんどしていないという。

“職業病”がスポーツとつながることもある。女性保育士は仕事中にしゃがむ動作が多く、この時に膝が内側へねじれ、膝から下が外側へねじれる「ニーイン・トゥーアウト」になると膝に障害が起きやすい。女子サッカー選手などでは、前十字靱帯が切れるのを防ぐためしゃがみ方を改善する訓練がされてきた。大内洋部長は「スポーツ整形の領域は広がっている」と指摘する。

スポーツ医が中心となり内科疾患の治療に挑む動きも出てきた。慶応大学病院スポーツ医学総合センターは、スポーツ医学や内科、循環器内科などの医師が治療にあたる。スポーツ医と内科医の連携が特に必要となるのが、メタボや糖尿病の患者が足腰に痛みを抱えるケースだ。

■メタボ改善を指導

60代男性の患者はメタボで治療が必要だが、膝に痛みを抱えていた。スポーツ医が関与することで、膝の痛みの原因を膝蓋(しつがい)大腿関節症と特定。「平地を歩いても大丈夫だが、階段の上り下りは患部を悪くする」と、具体的に運動の指導ができる。

膝の痛みに対応する運動としては水泳が有効だが、スポーツ医の存在が効果を発揮する。同センターの松本秀男教授は「半月板の状態が悪い場合、クロールは問題ないが、平泳ぎの動きは悪化させる可能性がある」と指摘する。

高齢化や生活習慣病患者の増加で、スポーツ医の活躍場所は広がってきた。しかし「若手医師の教育システムが整っていない」(松本教授)。一般的に整形外科の領域で訓練を積む医師が多いが、求められる能力の幅が広がるにつれ、より多様な知識を身につける必要が出てきた。

同センターではスポーツ医を目指す若手医師を、整形外科だけでなく内科や産婦人科、小児科にも派遣して専門的な知識を磨かせている。松本教授は日本臨床スポーツ医学会の副理事長を務める。慶応大病院での成果を同学会の活動へと格上げし、全国的な取り組みを目指している。

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公認医、年々増える 産婦人科医は不足

日本にはスポーツや運動に関連する医師の資格がいくつかあるが、最も古いのが日本体育協会の「公認スポーツドクター」。1982年に養成を開始した。2014年10月時点で5596人が認定を受ける。医師免許取得後4年以上で、都道府県体育協会などが推薦した医師が、スポーツ医学に関する講習会を受講すれば認定を得られる。

スポーツドクターの多くは整形外科医だが、内科や精神科、眼科などで取得している医師もいる。同協会によると産婦人科の医師を増やすのが課題という。女性トップアスリートの約40%が将来の妊娠に影響を与える可能性がある無月経や月経不順を抱えているとされるからだ。

歯科の分野では、日本歯科医師会と日本体育協会が「スポーツデンティスト」の養成を開始。運動と密接な関係があるかみ合わせの知識などが求められる。今年4月に1期生67人が認定された。スポーツドクター、スポーツデンティストとともに同協会のホームページから最寄りの医師を検索できる。

(辻征弥)

[日本経済新聞朝刊2015年8月2日付]

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