ラプラスの魔女 東野圭吾著科学知識や未来予測の概念導入

2015/7/28

古代から人間は、未来を予測しようとさまざまな方法で試みてきた。気象の分野では、科学の発達により、あるレベルまで可能となったものの、すべてが確実に判明する訳ではない。この先、完璧な予測能力を手に入れることはあるのだろうか。

(KADOKAWA・1680円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 東野圭吾の最新作『ラプラスの魔女』は、この未来予測をテーマにした長編作だ。物理学者・湯川学を主人公としたガリレオシリーズなどと同様、理系出身の作者ならではの科学知識を活(い)かしつつ、不可解な事件をめぐるSFミステリとして、サスペンスたっぷりに描いている。

 ある温泉村で、宿泊客の一人が、硫化水素ガスによる中毒で死亡するという事件が起きた。亡くなったのは六十六歳になる映像プロデューサーの男。若い妻とともにその地を訪れ、二人で付近の山を散策している途中の出来事だった。

 事故の検証に訪れた地球化学が専門の大学教授・青江は、現場で奇妙な若い娘を目撃した。しかも、のちに同じような事故が遠く離れた別の温泉地で発生したとき、そこでも彼女を見かけたのだ。やがて青江は、その娘、羽原円華の不思議な力を知ることになるとともに、はからずも事件に関わっていく。不幸な偶然が重なったと判断された火山ガスによる事故死の背後に、信じられない真相が潜んでいたのである。

 フランスの科学者ラプラスは、物質のあらゆる状態を知ることができるならば、未来は計算によって予測できるという概念を提唱した。いわゆる「ラプラスの悪魔」だ。のちに不確定性原理やカオス理論など、その存在を否定する考えが出てきたものの、本作では、このラプラスの概念を大胆に導入したうえで、悪魔や魔女としか思えない人物の登場とともに、予想を裏切る展開を次々と見せていく。

 また、円華のボディガードを依頼された元警官の武尾、事故死の調査を担当し、のちに青江教授と知り合う麻布北警察署の刑事・中岡など、複数の視点から物語は語られている。最初はおぼろげで断片的だった事件の全貌や怪しげな人物の秘密が徐々に明らかになっていく構成なのだ。

 しかも、冒頭から円華の身の回りで起こる不思議な現象、現場に現れる謎の人物、ある映画監督の家族を襲った悲劇とその後をつづったブログなど、その先を知りたくなるエピソードに満ちている。これぞサスペンスの力だ。それまでの緊迫感が最高潮に達するラストまで、一気に読まずにはおれないだろう。

(文芸評論家 吉野 仁)

[日本経済新聞朝刊2015年7月26日付]

ラプラスの魔女

著者:東野 圭吾
出版:KADOKAWA/角川書店
価格:1,814円(税込み)