お盆の弟
愛すべきダメ男の奮闘
いい年をして夢ばかり追っていて、生活力がない。でも破滅型ではなく、親切で善良で心優しい。そんな愛すべきダメ男の物語だ。
タカシ(渋川清彦)は5年前に1本撮ったきり、新作を撮れないでいる四十前の映画監督。仕事はなく、大腸がんの手術をした独身の兄(光石研)の世話をするため郷里の群馬に帰っている。東京に妻と娘がいるが、妻(渡辺真起子)には愛想を尽かされている。
次回作が実現すれば、妻とのヨリが戻ると本気で信じているタカシは、同郷の売れない脚本家・藤村(岡田浩暉)と企画を練る。しかしプロデューサーはつれない。助監督時代の後輩は人気監督になっている。
そんな時、新しい彼女に夢中の藤村にむりやり合コンに引っ張り出される。現れた涼子(河井青葉)は性格のよい美人だ。涼子が兄とつきあってくれたら、とタカシは考える……。
あまりにもおめでたい主人公だが、これに不思議とリアリティーがある。
病み上がりの兄のためにスーパーで食材を買い、田んぼを自転車で駆け、消化のよい料理を丁寧に作る。離婚に備え資格取得の勉強に忙しい妻のため、上京して子守をする。社会の細部のリアルな描写が、タカシの行動を生々しくする。
「やめようよ、こんな安っぽいドラマ」「あなたすごくかっこ悪いんだもん。嫌なの」という妻の悪態も、的を射ているだけに痛快だ。タカシだけでなく、妻も兄も藤村も涼子もそれぞれの逆境を懸命に生きている。現実を冷静に見すえているから、タカシの欠点も愛すべきものに見える。
監督は9年前に「キャッチボール屋」でデビューし、これが2作目の大崎章。脚本は「百円の恋」の足立紳。大崎と足立の実人生の要素が詰まっているというが、私小説ではない。画面の中の誰もが不器用ながら奮闘する。人生賛歌なのだ。1時間47分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2015年7月24日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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