オールド・テロリスト 村上龍著ちぐはぐな組み合わせで疾走

2015/7/21

衝撃的なテロ小説だ。世界に絶望と怒りがある限りテロはどこでも起こりうるし、テロは日常そのものを標的にしているから誰でもが被害者になりうる。著者はテロリストの主張と行動を通じて社会の病理を逆に照らし出そうとする。破壊というものの恐怖と魅惑の両方を感知できる村上龍らしいねらいである。

(文芸春秋・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 東日本大震災から7年後の2018年、いまから3年後という設定。渋谷の巨大マスコミのビル入り口で、東京・池上の商店街の道路で、新宿の大きな映画館で、立て続けに無差別テロが起きる。テロリストはこの社会の内側から不意に出現した。

 実行犯は職もなくコミュニケーションも苦手な若者たち。そのおとなしさと行為の凶悪さとのギャップがすさまじい。しかも彼らを背後で操っているのは70歳から90歳にもなる老人たち。何ともちぐはぐで分裂的な組み合わせだ。だが、両者ともこの社会に必要とされていない点で共通し、若者たちには絶望が、老人たちには怒りがある。絶望と怒りが結び付いたのだ。

 老人たちはみな旧満洲国に縁があるという。歴史の亡霊みたいなその「古さ」。しかし彼らの組織はアル・カイーダにも似て一つの中心に統合されないアメーバ状組織なのだという。その組織原理の「新しさ」。彼らはいう。今の社会は満ち足りてしまって何の需要もない、戦後の廃墟には何もなかったが需要だけはあった、需要が活力を生む、行き詰まったこの社会を廃墟に戻すのだ、と。

 彼らの主張は過激で極端で荒唐無稽に近いが、「リセット」したいという欲望はこの社会に確実に底流している。廃墟に戻すための最終ターゲットは原発である。

 なぜか犯行グループによって証言者役を振られたのは、失職して妻子に逃げられた冴(さ)えない中年の元ジャーナリスト。彼のパートナーは心を病んだ若い美女。これもちぐはぐな取り合わせだ。

 こうしていくつもちぐはぐで分裂的な組み合わせを導入したのは、小説をはじけさせようとする意図だったろう。たしかに小説は見事にはじけた。

 文章は読みやすく、進行はスピーディだ。その分、小説全体がやや宙に浮いたまま疾走している感じは残るし、設定上の分裂やギャップを最終的に回収統合し切れたかという疑問も残る。だが、随所にするどい社会批評や文明批評を挿入し、経済や政治の領域もしっかり組み込んでいて、上質なエンターテインメントに仕上がっている。

(文芸評論家 井口 時男)

[日本経済新聞朝刊2015年7月19日付]

オールド・テロリスト

著者:村上 龍
出版:文藝春秋
価格:1,944円(税込み)

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