
森羅万象博士 そうだね。三角や四角がないのはどうしてだと思う?
スーちゃん うーん。あ、丸いと運ぶときに、転がしやすいからかな。
森羅万象博士 一番の理由は、どんな向きでも落ちないからなんだ
博士より マンホールは英語の「人(man=マン)」と「穴(hole=ホール)」を組み合わせた言葉なんだ。作業する人が地下の下水道などへ出入りするためにつくられている。マンホールは数千年前から作られていたようで、イタリアにある古代ローマ時代の遺跡で、大理石製のふたが見つかっているよ。
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ふたが丸い理由はいくつかあるけど、一番はどんな向きにしても穴に落ちないからだ。ふたは鉄でできていて重いから、落ちると下にいる人が大けがをしかねない。落としたふたをひろうのも大変だ。
初めに、ふたが三角形や正方形ではだめな理由を考えてみよう。正方形の対角線は辺よりもだいたい1.4倍長い。穴の対角線上にふたの辺があってしまうと、かんたんに落ちてしまう。
正三角形も高さが辺の長さより短くなるので、同じ問題が起きる。三角形や四角形は向きによって幅(はば)がちがうから、こんなことになるんだ。
でも円なら安心だ。どんな向きにしても、かたむけても、幅は一緒(いっしょ)。マンホールの穴はふたよりも少しせまくしているから、どうやっても落ちない。
丸いと重くても転がして動かせるし、角がないから欠けることもない。ふたの向きを穴の形に合わせなくてすむから、作業がやりやすいよね。
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円のほかに穴に落ちない形はないのかな。実はあるんだよ。「ルーローの三角形」と呼ぶ三角形だ。辺に丸みがあって、三角おにぎりに似ている。19世紀にドイツ人のフランツ・ルーローが考え出した。正三角形の頂点を中心にして、一辺が半径となる円をコンパスで3つ引いて結ぶとできる。
この三角形を転がすと、高さはいつも同じ。つまり、どんな向きにしても幅が変わらないんだ。こうした幅がいつも同じ図形を「定幅(ていふく)図形」と呼ぶ。
不思議なことに、ルーロ-の三角形をドリルの刃にすると、できた穴の形はほぼ正方形になる。ふつうのドリルとちがって刃の中心は動くけどね。ルーローの三角形の幅と辺の長さが同じ正方形を重ねると、どんな向きにしてもはみ出さない。それで穴は正方形になるんだ。
ルーローの三角形のおそうじロボットがあるよ。ゴミがたまりやすい部屋の隅(すみ)に角が入ってそうじしやすい形なんだ。
ルーローの三角形のマンホールのふたは見かけないね。円とくらべると、加工するのに手間がかかるからなんだろうね。
博士からひとこと 海外では、ルーローの三角形や七角形などの形をした硬貨(こうか)が使われているよ。デザインとして目立つからだろうけど、どんな向きでも幅(はば)が同じだから、円形のコインと同じようにあつかえる。
たとえば、自動販売機(はんばいき)に入れたとき、正方形や三角形の硬貨だと、通り道の曲がった場所で引っかかって機械がこわれてしまうかもしれない。ルーローの多角形のように幅が同じなら、どこにも引っかからずになめらかに下に落ちるんだ。
(取材協力 秋山仁・東京理科大学理数教育研究センター長)
[日経プラスワン2015年7月18日付]