チャイルド44/森に消えた子供たち
国家に逆らう恐怖と誠意
旧ソ連で隠蔽されてきたアンドレイ・チカチーロによる大量連続殺人に想を得て英国の新人作家トム・ロブ・スミスが書き、日本でも2008年に翻訳出版されて評判を呼んだ小説「チャイルド44」の映画化。
実際には1978~90年にかけて起きた殺人を、著者は時代をスターリン独裁政権下の53年に変え、国家に逆らう個人の恐怖とそれでも正義を求める一人の男の誠実さを際立たせる。
国家保安省で反体制派を取り締まるエリート捜査官レオ(トム・ハーディ)は、スパイ容疑のかかる妊娠中の妻ライーサ(ノオミ・ラパス)をかばって共に田舎町へ左遷され、ここの警察で、彼の左遷前に同僚の息子が殺されたのと同じ手口の猟奇殺人に遭遇した。
子供たちの死は事故として処理された。〈犯罪は資本主義の腐敗。理想の社会主義を実現させた我が国に殺人事件はない〉が、スターリン独裁国家の見解。国に忠実なレオは一応信じるが、でも殺人犯はいる!
教師から清掃員に格下げのライーサは、レオの仕事が怖くて結婚を承諾、妊娠もウソ、と告白した。総(すべ)てを奪われた夫婦は、生きるために相手を信じ、そこに新たな関係が生まれる。
やがて赴任先の警察署長を巻き込み、殺人事件の捜査に乗り出すことで国家に逆らうことになるレオの姿を追うドラマは、犯人の行動を少しずつ交えながらレオを憎むかつての部下の残酷な復讐(ふくしゅう)を盛り込み、スリリングに展開していく。
スウェーデン出身、渡米して『デンジャラス・ラン』で骨太なスリルとアクションを見せたダニエル・エスピノーサが監督。冷徹な国家保安省捜査官レオが地位を追われ、非人間的に扱われる中で人間味を取り戻していく結果、妻との間に育つ同志愛にも似た濃い愛情が素晴らしい。夫婦役の俳優たちの演技にも深い味わいがあって見ものだ。2時間17分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2015年7月10日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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