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神戸の病院で術後患者相次ぎ死亡 生体肝移植巡り論争

2015/7/8 日本経済新聞 朝刊

生体肝移植で患者の死亡が相次いだ「神戸国際フロンティアメディカルセンター」(神戸市)をめぐり、手術に踏み切った判断の是非が問題になっている。学会などは「手術を中止すべきだ」と批判するが、生体肝移植の第一人者でもある執刀医は「手術や体制に問題はない」と継続する方針を変えていない。専門家の意見も割れる。

「極めて憂慮すべき事態」。日本移植学会と日本肝移植研究会は5月下旬、共同で緊急声明を出した。昨年12月から生体肝移植手術を始めた同センターで、今年4月までに患者8人のうち4人が手術後1カ月以内に死亡しており、1年生存率が8~9割という全国平均を大きく下回ったからだ。

■声明は異例の対応

同研究会は、死亡した4人のうち3人について「救命できた可能性が高い」と判断。「生体肝移植を担当するのにふさわしい病院としての総合力が標準からするとかなり不足している」と指摘し、「抜本的な改変が整うまで移植医療は中断すべきだ」と断じた。同研究会が特定の医療機関に手術中止まで踏み込むのは異例だ。

だが執刀した同センターの田中紘一理事長は「一部は改善する」としながらも、「手術は適切だった」として反論する。田中理事長はこれまでに生体肝移植を2千例ほど手掛けた第一人者。病院長まで務めた京都大病院で1980年代から取り組み、今回指摘を受けた日本移植学会の理事長や同研究会の当番世話人も務めたこともある。

研究会は「体制の不備」を指摘したが、この点も田中理事長は反論。神戸市が推進する「神戸医療産業都市」は総合病院である市立病院を中心に、同センターを含め高度医療を提供する民間などの専門病院を周辺に集積する構想で、田中理事長は「市立病院の医師などと連携しており問題はない」という。

同センターは6月上旬、移植手術を延期していた男性患者(63)からの希望で再開した。しかし男性の血管がもろく手術時間がかかり、健康な妻(64)が提供した肝臓の一部は機能せず、亡くなった。

男性はC型肝炎と肝硬変を発症後、2007年に肝臓がんと診断され、14年1月に別の病院で妻の肝臓の一部を移植する手術を受ける予定だったが門脈に血栓が見つかり、リスクが高いため断られたという。

同センターによると、男性は3~6カ月もつかどうかの状況だった。移植に先立ち、「生体肝移植は50%程度の成功率」と本人や家族に伝えていたといい、男性の妻は手術が終わった後、病院への謝意を表すコメントを出した。

この後、神戸市は立ち入り検査を行い、「医師数などは問題ない」とする一方、院内の報告体制の不備などの改善を指導した。

■重症患者引き受け

手術の技術的な問題については「10例程度で重症患者も多く、全国平均と比較しにくい。差があったかどうか分からない」(西日本の大学病院医師)との意見もあり、田中理事長もほぼ同じ主張をしている。一般的に重症化した患者は体力が低下しており、手術の成功率は低くなる。

一方、手術を再開したことについて生命倫理の専門家は意見が分かれる。

東京財団の●(きへんに勝)島次郎研究員は「手術中止を要請されていたのに強行し、患者は死亡し、結果的に臓器提供者(ドナー)に不適切な傷と負担を負わせた。認められる医療の範囲を超えている」と強く批判する。

●島研究員によると、生体移植は健康な人にメスを入れる行為が伴うため、本来は脳死移植の補助的な役割を担う。ただ日本には臓器移植法に生体移植の規定がなく、学会による倫理指針があるだけ。このため「事実上無規則で行われていることがセンターの独走を許した背景。法改正して生体移植が許される条件を厳格に定めるべきだ」と訴える。

一方、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の粟屋剛教授(生命倫理学)は「他の病院での受け入れを断られた患者を引き受け、難易度が高い手術をしたことは倫理的に容認される」と話す。「正しい情報を与えられて手術を承諾したのであれば患者の自己決定権を尊重した結果」とした。

受け皿が少ない生体肝移植の専門病院として設立された同センターは、理念と現実のはざまで大きく揺れている。

◇            ◇

■肝移植必要な患者、年2200人

日本移植学会によると、肝硬変や肝がんなどで肝臓が機能しないため肝移植が必要な患者は推計で年約2200人。約400人は脳死移植を希望して待機しているが、2009年法改正で増加したものの年40例前後で、ほとんどの患者は移植を受けられずに1年以内に亡くなっている。

生体肝移植は国内では1989年に初めて実施。治療成績も向上し、04年にはほぼ全ての肝疾患で保険適用となり、05年には年566例に達して肝不全の患者を救ってきた。

だが累計約7200例のうち2割強を担っていた京都大病院の田中紘一院長(当時)が同年に一線から退くと減少に転じた。13年は369例とピークだった05年の3分の2で、実施施設も減っている。

今回の問題を5月の日本肝移植研究会で議論した当番世話人、具英成・神戸大教授はこうした状況について「適切な患者に実施している結果」としている。生体肝移植は健康な提供者にメスを入れて肝臓を摘出する倫理的な問題がある。米国などは脳死からの肝移植で対応しており、具教授は「日本も脳死移植を増やして対応すべきだ」と話す。

(前村聡、大西康平)

[日本経済新聞朝刊2015年7月5日付]

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