きみはいい子
ひそかに示唆する希望
前作『そこのみにて光輝く』が「キネマ旬報」の2014年ベストワンに選ばれた呉美保(おみぽ)監督の新作。
中心となるのは、小学校の新米教師・岡野(高良健吾)の物語だ。生意気な生徒は岡野に反抗し、学級にいじめの問題も生まれてくる。そんななかで給食費を滞納する生徒の家へ行き、岡野は生徒が親から暴力を受けているらしいと知り、自分の無力を痛感する。
一方、岡野が生徒のいたずらを詫(わ)びに行った老女の家の前で、自閉症の児童・弘也がパニックを起こす。老女は弘也を家に入れ、遊び相手になる。弘也を迎えに来た母親(富田靖子)は、自分の知らない息子の一面を発見することになる。
また、同じ町に暮らす雅美(尾野真千子)は3歳の娘に暴力をふるうのをやめられない。そんな雅美に、がさつなママ友・陽子(池脇千鶴)が近づいてくる。陽子にも秘密があった…。
原作は中脇初枝の短編集だが、三つの異なった物語を一つにまとめた脚色が冴(さ)えている。新米教師の成長という一本の線を貫くことで、確かな手応えのある小宇宙が形づくられた。
子供の悲惨という衝撃的な題材だが、終始淡々としたリアリズムを保つ演出の的確さに感心させられる。
とくに見事なのは色彩設計で、前半はくすんだ翳(かげ)のある色調でクールに出来事を見すえるが、後半、岡野はじめ登場人物の人間的なエモーションの高まりに呼応して、画面がうっすらと明るい黄色や赤みを帯びはじめ、ドラマの行方がひそかに示唆する希望を感じさせるのだ。
学級崩壊に直面した岡野が「家族に抱きしめられてくること」という宿題を出し、生徒がそれに応える場面で、この映画は最良のドキュメンタリー的側面を見せる。堅実な演出のなかですかさずこうした即興的才能を発揮するところに呉監督の大器ぶりが窺(うかが)える。2時間1分。
★★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2015年6月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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