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外がシャリッ 佐賀の小城ようかん 練り技と空気が決め手

2015/6/24 日本経済新聞 夕刊

京都を模した街並みに風情の薫る佐賀県小城(おぎ)市は、二十数軒のようかんメーカーが集まっており、全国でも珍しい地域だ。小豆のほのかな香りと多彩な味わいを誇る伝統の「小城羊羹(ようかん)」は、空気に触れて表面の糖分が固まり、シャリシャリとした食感に特徴がある。現在も店ごとに商品の個性を競いつつ、歴史や文化は脈々と引き継がれている。

伝統的な小城羊羹は空気に触れて徐々に表面が固まりシャリシャリとした食感を楽しめるのが特徴だ

JR唐津線の小城駅から北に延びる道沿いを中心にようかん店が軒を連ねる。山上の社へ長く急な階段が続く須賀神社の鳥居の向かいに、小城羊羹を代表する老舗の1社、村岡総本舗の羊羹資料館が建つ。ここでは、ようかんづくりの道具類をはじめ、小豆や砂糖、寒天といった原材料などを展示している。

近くに構える近代的な工場では、同社が県内外で販売するようかんなどの菓子を製造している。ようかんの味を決めるのは、厳選した素材と練り加減だという。「羊羹煉(ね)り十年」と言われるほど経験と勘が求められる作業を萩原隆文さん(44)が大きなへらを使って慎重にこなす。

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県内の優れた技術者と認められた「佐賀マイスター」の萩原さんは例年、県が実施する事業で児童や生徒に技能を伝える教室を開いている。今年も6月7日に小城市の三里小学校を訪問。5、6年生の児童に小城羊羹の歴史を説明した後、練り、型入れ、切り分け、包装など一連の製造工程を体験してもらった。こうした取り組みも地元の銘菓を身近にしている。

佐賀市内の村岡総本舗佐賀総本店などでは毎月のように「羊羹のおいしさ講座」を催し、数種類のようかんを実際に試食しながら材料や製法の違いで味わいがどう異なるのかなどを分かりやすく解説している。講師の村岡由隆副社長(38)は「お茶だけではなくコーヒーと合わせるなど、いろいろな楽しみ方を提案していきたい」と語る。

村岡総本舗羊羹資料館ではようかんの歴史を詳しく紹介

この小城羊羹の伝統的な製法では、外側がシャリシャリとして内側はやわらかくみずみずしい味わいに仕上がる。「昔(風)ようかん」「切りようかん」「断ちようかん」とも呼ばれる。密封できる包装内に生地を流し込む「練りようかん」も増えている。

包装技術の向上でようかんをあらかじめ小分けにした商品も加わっている。和モダンな店構えが印象的なむら雲堂本舗は、手間なく食べやすいお土産用として、パッケージのデザインも現代的にするなどの工夫で、若年層に人気を得ているという。

味の種類も豊富だ。こしあん、つぶあん、白あん、紅あんや抹茶あたりが定番だが、塩、ユズ、ゴマ、イチゴ、梅酒、ワインなどもある。こうした「変わり(種)ようかん」にも力を入れている中島羊羹本舗は「香ばしさとほのかな苦味を味わえる甘さ控えめのコーヒーようかんが特におすすめ」だと話す。

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そもそも、現在の人口が5万に満たない小城市でようかんづくりがこれほど広まったのはなぜか。小城市観光協会などによると、次のような指摘がある。

職人が素材の状態を確かめながら作り上げていく

まず、江戸時代に鎖国の下で海外との唯一の窓口だった「出島」に届いた砂糖が、佐賀を通り、小倉へ続く長崎街道を経て、京や大坂、江戸へ運ばれていた。「シュガーロード」沿道で宿場のあった現在の小城は貴重品だった砂糖や製菓の技術を手に入れやすかった。

さらに、名水百選に数えられる清水川とその本流の祇園川などから良質な水を容易に確保できた。現在の佐賀市富士町一帯でかつては小豆を大量に生産しており、主原料を調達しやすかった。

文化や経済の観点でも、古くからの城下町で、禅や茶道が発達し、受け入れる下地があった。日持ちがするので、携帯保存食として軍隊で重宝され、佐世保の海軍や久留米の陸軍へ供給するのに適地だったことなどだ。

羊の羹(あつもの)と書くようかんは、中国の羊肉を煮込んだ温かいスープを表す言葉だ。それが日本に伝わり、長い年月を経て今の形になったという。今年の干支(えと)の未(ひつじ)にあやかり、消費拡大に向け地元は知恵を絞っている。

<マメ知識>全国平均2倍の支出
総務省の家計調査によると、2012~14年平均でようかんへの支出が佐賀市は1333円で、全国平均747円の倍近い。順位は宇都宮市に続く2位だったが、両市が長らく首位を競っている。小城羊羹協同組合は往時に比べ消費減少に危機感を抱く。
とはいえ、地域の食生活にようかんは深く根付いている。地元住民にはそれぞれお気に入りの店があり、家庭ではようかんを切らさないといわれる。かつては学生らが勉強の合間などに1棹(さお)食べて空腹を満たすことも珍しくなかったそうだ。

(佐賀支局長 田中浩司)

[日本経済新聞夕刊2015年6月23日付]

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