働き方・学び方

イチからわかる

進む介護職員の人手不足 労働環境の改善急務

2015/6/23 日本経済新聞 プラスワン

イチ子お姉さん 日常生活で手助けが必要なお年寄りを、仕事として支える人が足りないそうよ。高齢化(こうれいか)が進むと人手の確保は今よりもっと問題になるわ。
からすけ ボクのじいちゃんとばあちゃんはまだ元気だから、お世話してくれる人はなじみがないな。どんな仕事なのかな。なんで足りないの?

■働く人が減り、大変な仕事敬遠

イチ子 日本の将来を考える日本創成会議という団体があるの。高齢化が進むと、お年寄りを世話する介護(かいご)職員という人たちがどんどん足りなくなって、10年後の2025年に全国で43万人ほどが必要な世話を受けられなくなるという報告書を発表したわ。

からすけ 43万人? ピンとこないや。

イチ子 今の長崎市の人口と同じくらい。大きな市が1つなくなると考えればイメージがわく? 43万人のうち東京と埼玉、千葉、神奈川の高齢者は3割強もいるの。大都会が深刻になるそうよ。

からすけ じいちゃん、ばあちゃんは大丈夫かな。

イチ子 心配ね。介護職員は全国に160万人いるの。国の試算では、25年には232万人から244万人が必要になるんですって。創成会議は「人材確保のハードルは高い」と警告しているわ。

からすけ どうして?

イチ子 今も人手が足りないからよ。仕事を探す人1人に対して何人分の求人があるかを示す有効求人倍率(キーワード)という数字があるの。昨年はすべての仕事を平均すると1倍。1人の求人を出せば1人集まる計算なの。でも介護に絞(しぼ)ると約2倍。2人募集(ぼしゅう)しても1人しか集まらないのよ。仕事が多くある東京だと、4人募集して1人集まるかどうかよ。

からすけ そんなに足りないんだ。びっくり。

イチ子 人口が減る日本では働く人も減るの。25年は6310万人と、13年の6577万人から267万人も減るという調査もあるの。介護の人手不足は深刻になるわ。

<キーワード>
有効求人倍率 全国にあるハローワークという国の施設で集計した、求職者と求人数の比率を示す労働市場の指標。
介護保険 社会保険制度の一つ。原則40歳以上の人がお金を出し合い、高齢者の介護サービス料金をまかなう。

■働く環境良くする必要

からすけ いったいどんな仕事なの? 面白くないから人が集まらないの?

イチ子 働く場所は主に2つで、お年寄りの家と、お年寄りが移り住んだり通ったりする施設(しせつ)ね。家を定期的に訪れて食事を作るほか、入浴やトイレなどを手伝うわ。施設だと、身の回りの世話だけでなく、お年寄りが元気になるように歌の会や体操の時間を設けてサポートするのよ。

からすけ いろんなことをするんだね。

イチ子 でも仕事は正直言って大変そうよ。特に施設で働く人たちは、朝早くから夜遅(おそ)くまでたくさんのお年寄りの世話をするわ。人手が足りないから目の回るような忙しさよ。お給料は介護保険(キーワード)という国の制度を基に支払(しはら)われるけれど、決して高くはないわ。だから人が集まらないの。でもやる気のある人は「働きがいがある」「お年寄りの役に立ちたい」とがんばっているのよ。

からすけ 大事な仕事だし、もっと社会で認められてもいい気がするけど。

イチ子 まずは、働く環境(かんきょう)をもっと良くする必要があるわね。特に施設の経営者は、職員が休みを取りやすくしたり、能力がある職員のお給料を上げたりすることが求められるわね。

からすけ それで人が集まればいいんだね。

イチ子 でも、働く人が減る日本では、経営者ががんばるだけでは限界があると創成会議は指摘(してき)しているわ。外国から介護をする人を受け入れることも考えましょう、と言っているの。外国の人が日本で仕事をするには様々な規制があるのだけれど、日本語を話せるといった条件をクリアすれば、お年寄りの世話をお願いしてもいいのでは、というわけね。

からすけ 優しい外国人が来てくれるといいな。

イチ子 お年寄りにも、できるだけ健康でいてもらうことが大事になるわ。物忘れが激しくなったり、車いすが欠かせなくなったりと、本当にお世話が必要になったら、介護保険に基づくサービスを受けなければならないわね。国や市町村は今、そうしたお年寄りを増やさないよう、健康づくりや見守りといった事業を進めているの。お年寄りが健康で元気に暮らすにはどうしたらいいか、私たちの世代もできることを考えたいわね。

■異なる世代への共感必要

灘中学校・高等学校の藪本勝治先生の話
介護の人材不足は少子高齢化の現代に特有の問題ですが、長寿(ちょうじゅ)の親を子が山に捨てる「うば捨て山」の伝説は世界各地に残っています。老母が難題を解く知恵(ちえ)を出し、存在価値を認められ捨てられずにすむ話が有名ですが、柳田国男によるとこれはインドに由来する話型。日本に古くからあるのは次のようなものです。
老母が山に入る道中、息子が帰り道で迷わぬように目印に小枝を折る。感動した息子は母を連れに戻(もど)る話です。実利的な価値ではなく親子の愛情が人間を動かす点で私はこちらを好ましく思います。
利益の追求を第一とする競争の論理だけを重視すると、介護や保育、教育に予算を十分割けなくなります。皆(みな)が負担と幸福を分け合うためには、異なる世代への共感と利他的な愛情に基づく福祉(ふくし)の論理が必要ではないでしょうか。
今週のニュースなテストの答え 問1=共和、問2=MERS(マーズ)

[日経プラスワン2015年6月20日付]

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