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診療×IT 患者にプラス 活動量計で日常把握 タブレット活用 情報共有で的確な説明に

2015/6/17 日本経済新聞 朝刊

 医師が患者に治療内容を説明したり、患者の日常を把握したりする手段として、IT(情報技術)を活用する取り組みが医療現場で進んできた。「自分の病気のことをもっと詳しく知りたい」「治療方針を具体的に説明してほしい」。患者と医療従事者の関係をつなぐ役割として期待される。

 習志野台整形外科内科(千葉県船橋市)を訪れた50代の女性患者が、受付で診察券の代わりに手のひらサイズの機械を差し出した。職員はそれを手元の端末にかざすと患者に返却。しばらくして患者の名前が呼ばれ、診察室へと向かった。

■診察券代わりに

 患者が差し出したのは活動量計。歩数や消費カロリーなどが記録されている。診察室では宮川一郎院長が目の前のディスプレーに表示されたグラフを見ながら、足腰を痛めている患者に「良くなってきました。次は1日8千歩を目指そう」と助言した。

 同診療所では活動量計のデータと電子カルテを連携させている。活動量計の識別番号で患者を特定し、電子カルテに活動量計のデータを取り込む仕組み。データは来院するたびに蓄積され、時系列で患者の状態変化が分かる。

 活動量計を使うのは足腰が悪かったり肥満が問題になっていたりする約30人。「患者の普段の生活を見ることで的確な治療ができる」(宮川院長)。各患者に購入してもらい、持って来るのを忘れないよう診察券代わりにした。患者の70代女性は「曖昧なアドバイスではなく、具体的な目標歩数を示してもらえるのでありがたい」と話す。

 同診療所ではタブレット端末も積極的に活用している。患者がiPadで問診票を入力したり、病気の原因を動画で説明したりする。診察室にはディスプレーもあるが、「患者と向き合って話すにはタブレット型の方が適している」(宮川院長)ためという。

 患者向けにIT機器が活用されるようになったのは最近のことで、より丁寧な説明に役立つことが期待されている。日本医師会総合政策研究機構(東京・文京)の調査では、受けた医療に満足していない理由(複数回答)は「待ち時間」(44.4%)と並び「医師の説明」(43.4%)が多かった。多忙で専門用語が多くなりがちな医師の話を補い、患者の理解を助ける効果が指摘される。

 電子カルテの普及もIT機器の導入を後押ししている。習志野台整形外科内科でも、処方された薬を記す「お薬手帳」や血圧のデータを記録する「血圧手帳」にQRコードを付け、電子カルテと連動している。

 南多摩病院(東京都八王子市)は、170床すべてにタッチパネル式のベッドサイド情報端末を導入した。テレビの視聴やインターネット検索もでき、利用料は1日当たり540円だ。

 端末には体温や血圧、血液検査の結果が表示される。入院中に使われる薬の効果や副作用を自分で調べたり、手術日や検査日などのスケジュールを手元で確認したりできる。医師や看護師ら病院側のスタッフが操作すれば、自分のレントゲンやコンピューター断層撮影装置(CT)などの検査画像も表示できる。「主治医が病室で患者に詳しく説明することができるようになった」と中村航一副院長は話す。

■「接点減る」懸念も

 機能は多いが、必ずしもすべてが有効なわけではない。例えば病院側から患者への連絡事項を伝えることを想定した「伝言板」はほとんど使われていない。これまでは看護師が口頭で連絡事項を伝えており、患者とのコミュニケーションの機会になっていた。

 「話す機会が奪われる、と看護師の評判が悪い」(坂野隆一郎システム管理部長)。医療者と患者の貴重な接点を減らすことにもつながりかねず、中村副院長は「端末に頼りすぎず、患者のそばにいることをおろそかにしてはいけない」と指摘。デジタルとアナログの使い分けの重要性を訴える。

◇            ◇

■在宅医療でも活用

 ITは在宅医療でも活用されるようになり、患者にプラスの効果を生んでいる。

 2009年に訪問診療を始めた桜新町アーバンクリニック(東京・世田谷)はスマートフォン(スマホ)やwebサービスを駆使する。変更が多い往診予定はカレンダー機能で全スタッフが共有する。患者宅で作った処方箋をスマホで薬局に送り、訪問薬剤師が自宅まで薬を届ける。痛み止めが切れた患者にすぐに薬を届けられるなどの利点がある。

 同クリニックには、医師5人、看護師9人のほか、薬剤師、ケースワーカー各1人が所属。世田谷区内を中心に330人の患者を診る。遠矢純一郎院長はIT活用の狙いについて「院内の業務効率化と院外の施設との連携強化」と説明。書類作成やスタッフ間の申し送りなどの時間を削減し、「診療に使う時間を50%増やすことができた」という。

 医療のIT利用に詳しい山梨大学医学部の柏木賢治准教授は「医療者間や介護スタッフとの連携、処方薬の重複防止などITが応用できる範囲は広く、患者の生活の質を高めるうえでITは欠かせないツール」と指摘。そのうえで「多職種が関わる在宅医療では、連携するメンバーの間でITスキルにばらつきが大きく、レベルをどう維持・向上させていくかが課題となる」と話している。

(辻征弥、編集委員 木村彰)

[日本経済新聞朝刊2015年6月14日付]

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