N
くらし&ハウス
安心・安全

気付こう心のSOS 部下がうつになる前に服装・食欲に注意 話し方、肯定的に

2015/6/12

安心・安全

部下が突然うつになり、会社に来られなくなった。こんなケースに直面することは珍しくなくなっている。今年12月からは精神面で不調を抱えた人を見つけるストレスチェックが企業に義務化される。早い段階で周囲が気づいて悪化を防ぐとともに、心の病気になりにくい職場環境づくりも重要だ。

最近、20代の男性部下の顔色がさえない。社運をかけたプロジェクトを任せて1カ月。会議で発言が減り、以前は冗談好きだったが話しかけても反応が鈍い。遅刻をするようになり、以前はなかったシャツのしわや寝癖も目立つ。

こんな時、あなたが上司ならどう接するだろうか。

▼対応(1) プレッシャーを減らすため、プロジェクトから外して残業が少ない別の仕事に配置換えした。

▼対応(2) 仕事の進捗を尋ね「月内にここまで進めたらいい」と大ざっぱな方向を指示。プロジェクトの意義を強調し、「だから君に頼んだ」と声をかけた。

職場の状況や個人の性格にもよるが、約40社で産業医を務める新宿ゲートウェイクリニックの吉野聡院長は「(1)は典型的な誤った対応」という。物理的負担が軽くなっても、「必要とされていない」と心理的な重荷になることが多い。まずは仕事への不安を取り除くことが大切で、そのために(2)のように仕事の意味や見通しを伝えるのが理想的だという。

日本生産性本部が開いた職場のメンタルヘルス対策セミナー(東京都渋谷区)

厚生労働省によると、仕事のストレスなどで精神障害を起こしたとして労災を申請した件数は2013年度、過去最多の1409件となった。実際の認定数も436件。会社を休みながら元気に旅行に出かけるなど、「新型うつ」と呼ばれる症状も問題になっている。

部下が深刻なうつになるのを防ぐには、サインを見逃さないことを心がけたい。「服装が乱れてくる」「あいさつしなくなる」「声が小さくなる」。1日、日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所が東京都内で開いた「職場のメンタルヘルス対策セミナー」。講師の飯田進一郎研究主幹が労働組合関係者らに心の不調の兆候を説明した。

飯田氏によると、ストレス反応は睡眠や食欲に表れやすい。いつも定食を選んでいた人が麺類ばかり頼むようになったことが、調子を崩している兆候の可能性もあるという。兆候に気づいたら、立ち話でいいので声をかける。「ちゃんと眠れているか」程度でもいい。「大丈夫です」と素っ気ない反応しか返ってこなくても、見守っていると繰り返し伝えれば悩みが打ち明けやすくなる。

企業向けにうつ予防などの研修を実施する「ジャパンEAPシステムズ」(東京・新宿)の松本桂樹社長も「公私を問わず大きな変化があった部下には特に気をかけてほしい」と話す。転勤などで環境が変わったら、定期的に面談したり、食事に誘ったりして話す機会を持つことを勧める。

接し方にも注意がいる。若い世代は自己愛が強く、否定されるのに慣れていない傾向があり、指導の時は「君は」「おまえは」と相手を主語にせず、叱る理由を伝え、人格を否定していないことを示す。肯定型で具体的に話すことが重要で、例えば「ちゃんとしろ」ではなく、「最後にもう一度確認するように」などと言い換える。

ただ「どんな職場にもストレスはある。部下に達成感と裁量権を与え、ストレスを前向きに捉えられる力を育てる」(新宿ゲートウェイクリニックの吉野院長)視点も必要だ。過度のストレスを感じず、のびのびと仕事に向き合うには仕事へのやりがいを感じられるかどうかがカギを握る。

日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の根本忠一研究主幹は「仕事の面白さを教えることが上司の役割。病気にしないことばかり気にするのではなく、部下を一人前にするという本来の業務を通じて信頼関係を築くことが大切だ」と話す。

◇            ◇

ストレスチェック 企業に義務付け 12月開始、業務見直しも

「上司と気軽に話ができる」「職場の雰囲気は友好的だ」。改正労働安全衛生法により、12月から従業員50人以上の事業所にストレスチェックが義務付けられる。年1回、従業員にこうした質問をして精神的な負担の度合いを調査する。

ストレスの度合いが高いと結果が出たら医師の面接を受けさせる。企業は結果を知ることはできないが、本人の同意を得た医師の助言で業務の見直しなどを求められる。

厚生労働省はメンタルヘルスの情報を集めたホームぺージ「こころの耳」(http://kokoro.mhlw.go.jp/)で個人で試せるストレスチェックを公開。57項目の質問に答えると点数を計算し、「少し高め」などとストレスの状態や原因の分析結果を示す。

5月には事業者や産業医向けに制度に関するサポートダイヤル(電話0570.031050)を開設した。全国の産業保健総合支援センターでセミナーを開くなど準備を進めている。

(小川知世)

[日本経済新聞夕刊2015年6月11日付]

注目記事