診療所へ出向 産後ケアまで 助産師の能力・役割拡大経験積み、少子化に対応

日本のお産を支えてきた助産師のスキルアップと役割の拡大を――。少子化や産婦人科医不足などお産を取り巻く状況が厳しいなか、こんな動きが広がってきた。経験を積んでもらうため外部の医療機関に出向したり、出産後の子育てにも関わってもらったり。助産師への期待は増している。

「体調は回復しましたか?」「目がぱっちり開いてますね」。5月下旬、茨城県鹿嶋市の葉山産婦人科。助産師の網野尚美さんが、生後3日目の女児を抱く20代の母親に語りかけた。

網野さんの正式な肩書は筑波大付属病院(茨城県つくば市)の副看護師長。半年間の予定で同産婦人科に出向した。網野さんが勤務するような大学病院は比較的リスクの高い妊産婦が集まる。診療所で助産師の仕事の基本となる正常分娩の経験を積むのが目的だ。

助産師は出産に立ち会ってお産をサポートしたり、出産直後の母親や新生児のケア、妊娠中の女性の健康診断を実施したりする国家資格で、女性のみの専門職だ。看護師資格を持ち、専門の養成機関で教育を受けた後、国家試験に合格するとなれる。自宅出産を希望する人らが利用する助産所を開業することも認められている。

■偏在の是正が必要

全国に約3万5千人いるが、勤務先は病院が62%、診療所が25%と偏りがある。少子化が進むなか、助産師が経験を重ねて出産環境を整えるには、偏在の是正が欠かせない。

網野さんの場合、筑波大病院での分娩介助は年20~25件程度。ハイリスクの妊産婦への対応が多い。管理職としての仕事や学生の実習指導もあり、「患者(妊婦)さんの近くにいられないジレンマがあった」。葉山産婦人科では月平均60件の分娩があり、ほとんどが正常分娩だ。1週間で3件の介助に携わり、「健康な母親と赤ちゃんが持つ産む力、生まれる力を改めて実感した」と喜ぶ。

出向の仕組みは日本看護協会(東京・渋谷)が厚生労働省に提案した。モデル事業を経て、今年度から本格的に始まった。人件費などの負担をどう調整するかや、施設間の仲介、出向者の支援に当たるコーディネーターの養成といった課題も多い。ただ日看協の福井トシ子常任理事は「助産師の本来の役割を発揮できる体制作りが欠かせない」と訴える。

■産科医の負担軽減

助産師は独立して正常分娩の介助や妊婦健診ができる。医師がすべての妊婦を診察する医療機関も多いが、最近は過酷な勤務が指摘される産科医の負担を減らす目的もあり、助産師が健診や保健指導を行う「助産師外来」や助産師だけでお産を扱う「院内助産」を実施する施設が増えている。助産師外来は12年には490カ所と4年前の1.8倍、院内助産も2.6倍の82カ所になった。

深谷赤十字病院(埼玉県深谷市)は1991年、全国に先駆け助産師外来を開設した。医師はリスクの高い妊婦を担当し、助産師は正常に経過する妊婦と役割を分担する。年間500件以上ある分娩の2~3割は助産師だけで扱う。高橋幸男・婦人科部長は「責任が重い分、仕事の達成感ややる気の向上にもつながっている」と語る。

妊婦の話にはじっくりと耳を傾ける。「便秘がきつい」「ディズニーランドに行っても大丈夫?」。体調だけでなく、日常生活での悩みを打ち明ける人も多い。助産師外来を担当する清水操さんは「医師に相談しづらい話題もある。言いたいことを言える雰囲気づくりに気を配っている」と強調する。

核家族化や地域のつながりが薄くなり、助産師の役割は出産までにとどまらなくなりつつある。産後うつになる人や子供の虐待も増えており、母親の産後ケアに助産師の力を借りるケースも目立つ。

名古屋市は10月から、生後4カ月未満の乳児と母親を対象にした育児支援で助産所を活用する。宿泊または日帰りで計7日間利用ででき、入浴や授乳の仕方のほか、産後の母体の管理法を助産師から教わり、育児相談も受ける。

川崎市も市助産師会と同様の事業に取り組む。望まない妊娠や産むかどうか迷っている人らが電話で相談できる窓口も設ける。厚労省の担当者は「助産師の力を生かし、妊娠期から出産、子育て期まで切れ目のない支援策を整えていく必要がある」としている。

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「アドバンス助産師」始まる

助産師外来や院内助産を普及させるには助産師一人ひとりの能力向上が欠かせない。ただこれまでは能力をはかる物差しがなかった。このため日本看護協会や日本助産師会(東京・台東)など5団体は8月から、助産師の実力を客観的に評価し、認証する制度を始める。

分娩介助100例以上、妊婦健診200例以上などの経験に加え、新生児蘇生法や分娩監視装置に関する研修の受講が条件。病院を通じて申請し、第三者機関の日本助産評価機構(東京・豊島)が認証する。

認証された助産師は「アドバンス助産師」として認定され、「自律して助産ケアができる助産師」として公表することもできる。評価機構の堀内成子理事長は「産科医にとってもチーム医療で適切な役割分担が可能になる」と意義を語る。

申請者は経験年数が7年程度の助産師を想定しており、11月に800人規模でアドバンス助産師が誕生する見通し。5年ごとの更新制とする。

(江口博文、山崎純、吉田三輪)

[日本経済新聞朝刊2015年6月7日付]

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