くらし&ハウス

暮らしの知恵

受験勉強・旅行者歓待… シェアハウス、目的多彩に

2015/6/6 日本経済新聞 夕刊

若者が節約のために住まいを共有するイメージだったシェアハウスが多様化している。都市部の単身世帯が一人暮らしに求めるものも様々で、目的や趣味を共にする人たちとの暮らしも高い付加価値となる。ワンルームの賃貸住宅に飽き足らない人にとっての有力な選択肢となっている。
みんなで外国人旅行者をもてなすのが同居のルール(東京・新宿)

5月、新宿区余丁町にあるスーパーの3階に併設していた社員寮を改装し、男女6人が同居するシェアハウスが開業した。

「はじめまして」。挨拶もそこそこに都内の旅行情報会社で働く三井晃子さん(26)はピザの宅配を注文。初めて顔を合わせた同居人同士で持ち寄りの総菜を備え付けの食器にとりわけて夕食を始めた。

食卓の会話はすべて英語だ。なぜならゲストに外国人旅行者がいるから。このシェアハウスには外国人旅行者の短期滞在を無料で受け入れるゲストルームがあり、全員でもてなすのがルールなのだ。

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2020年東京五輪に向けて、外国人旅行者の宿泊施設不足が浮上している。その補完役が民泊(民家での宿泊)なのだが、一人暮らしでは受け入れにくい。男女6人で住むシェアハウスなら安心感がある。「外国人旅行者のリアルな声が聴けて仕事にも生かせそう」と三井さん。

専有部は水回りのない個室。家賃は月8万円弱、清掃サービスなど共益費1万5千円も必要だ。地域の相場より高めだが、入居の問い合わせは少なくないという。運営会社代表の小原憲太郎さん(32)は「都内に10軒くらい造りたい」と意気込む。

野良猫の一時保護を受け入れるシェアハウスもある。練馬区平和台の一軒家を改装して3月にオープンした「ねこシェアハウス299」。女性5人が同居し、個室ドアの小窓を通じて猫が自由に出入りする。入居者で介護職で働く丸谷愛子さん(41)は仕事から疲れて帰宅した夜、4匹の猫がベッドで寝ている姿を目にして「癒やされる」。

東大合格シェアハウスの授業風景。教室は共用のリビング

今まで仕事をしながらの一人暮らしで猫は飼えなかった。シェアハウスなら家を空けることになっても誰かが世話をしてくれる。猫と暮らす毎日に「早く帰ろうかなって気持ちが強くなった」と丸谷さん。家賃は5万円程度、共益費1万3千円と飼育費1万円が別途必要だ。

練馬区石神井台で3月にできた「東大合格シェアハウス」も浪人生の一人暮らしを一味違ったものにするかもしれない。都内の難関大を受験する男子浪人生11人が共同生活する2階建ての新築物件で、共用のリビングで予備校講師の授業を受けられる。家賃は8万円、授業料は8万円だ。

入居者の岡村勇気さん(19)は東大文科3類を目指す兵庫県出身の浪人生。バスケットボールに明け暮れた高校時代は孤独な受験勉強に前向きになれなかった。「ここはみんなで1つの目標を共有して一緒に生活している。チームスポーツみたいで楽しい」と笑う。

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シェアハウスにして付加価値を高める動きは小規模物件だけに限らない。大田区仲六郷で大企業の社宅を改修して13年にできた「ソーシャルレジデンス蒲田」は個室が260戸。入居者は共用部に集まって運動や料理などができるほか、他の住人のための講座を開いて謝礼を受け取ることもできる。家賃は月6万3千~6万7千円で水道光熱費が1万2千円。

河野充帆さん(30)は美容目的の筋肉トレーニング「ピラティス」をスポーツジムで教えているが、プロになるきっかけはシェアハウスで開いた講座だった。教えることが不得意だった河野さんを支えたのが生徒になってくれた入居者仲間たち。「シェアハウスで出会った友達が自分の生きている世界を大きくしてくれた」と河野さんは感謝する。今でも入居者向けの謝礼は1回500円と格安のまま据え置いている。

「ソーシャルレジデンス蒲田」などを運営するオークハウス(東京・渋谷)は社宅を改修した大規模なシェアハウスに今後も力を入れる方針だ。山中武志社長(63)は「物件の規模が大きいほど共用部の設備や交流のソフトサービスを充実させやすい」としている。

■居間、水回りなど共用
シェアハウスとは、玄関や居間、水回りを共有する単身者向け賃貸住宅。家具・家電も共用し生活費を抑えられる。入居者は女性の占める割合が高い。中心だった20代に加え、最近は、より所得水準の高い30代以上も増えているという。

(地方部 桜井佑介)

[日本経済新聞夕刊2015年6月3日付]

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