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後発薬、医療費抑える? 明確なデータいまだ乏しく 普及へ丁寧な開示必要

2015/5/27 日本経済新聞 朝刊

新薬より価格が安い後発医薬品(ジェネリック)の普及に国が力を入れている。膨れ続ける医療費を削減するのが狙いで、2017年度末までに4割台(13年時点)の使用率を6割以上に引き上げる目標を掲げる。ただ医療費抑制につながる明確なデータがないとの指摘も出ている。

「同じ効能なら、少しでも安くなる方がいいわ」。東京都足立区の主婦、斉藤勝子さん(71)は昨年以降、血圧を抑える薬2種類を後発薬に切り替えた。「最初は抵抗があったが、効果は変わらない」

斉藤さんが通うもみじ薬局(東京・足立)では、今年までに後発薬に切り替えた患者が8割超。「『国の医療費を抑えるため』と説明すると協力してくれる高齢者が多い」と薬剤師の寺山啓一郎さんはいう。

後発薬の利用促進に積極的な足立区は、14年3月時点の使用割合が23区トップの54.1%。区によると、14年度の医療費削減効果は、11年度比で推計3億2700万円に上る。

■健保組合も動く

パナソニック健康保険組合(大阪府守口市)は11年度から個人別の「差額通知」をインターネット上で閲覧可能にした。過去に使った先発薬を最も安価な後発薬に切り替えた場合の価格差を示す。14年度の後発薬使用による医療費削減効果を前年度比1億8千万円減と見込む。

11年度の国民医療費38.6兆円のうち薬剤費は8.4兆円。厚労省によると、後発薬の数量ベースの使用割合は13年9月時点で46.9%に達したが、米国の約90%(10年)、ドイツ約80%(同)とは開きがある。政府は17年度末までに6割以上に引き上げる目標を掲げ、財務省は4千億円の医療費削減につながるとそろばんをはじく。

ただ後発医薬品が医療費削減の特効薬となるかについては「明確なデータが足りない」との指摘もある。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が11年度の都道府県別の後発薬の使用割合と処方箋1枚当たりの薬剤費を比較したところ、使用割合が高いと薬剤費が低い自治体はあったが、明確な傾向は見られなかった。日医総研は後発薬を使うと具体的に医療費がいくら減るのか議論するため、根拠となる資料を提示するよう厚労省に求めている。

都道府県別の市町村国民健康保険(国保)の1人当たり医療費と後発薬の使用割合(12年度)をみると、使用割合が全国で2番目に多い鹿児島の医療費は全国で8番目に高く、逆に使用割合が低い東京の医療費は低い。高齢者の割合など薬剤費以外の要因も影響しているとみられるが、こうしたデータからは後発医薬品が医療費削減に直結しているかは分からない。地域ごとに処方回数や医薬品の種類などの情報が必要だ。

■飲み残しも問題

薬の無駄を指摘する声もあがる。飲み残しがあるのに処方されたり、一人の患者が複数の医療機関で同じ薬を処方されたりするケース。日本薬剤師会の推計では、患者が飲みきれない残薬は年間500億円規模とされる。後発薬が普及して薬の単価が下がっても、薬が大量に処方される現状が変わらなければ薬剤費の削減は進まない。

医薬品の審査に関わった経験がある池田正行長崎大元教授は「後発薬が医療費抑制につながる信頼できる研究は知らない」と話す。後発薬をより多く出せば報酬が加算される仕組みを含め、「調剤に関わる診療報酬のあり方を見直すべきだ」(日本医師会の中川俊男副会長)との指摘もある。

医療現場での後発薬への信頼も十分とはいえない。日医総研が昨年、医師を対象にしたアンケートでは、回答した1519人の約54%が後発薬の品質に問題を感じると答えた。「後発薬に関する情報開示が十分でない」といった意見もあった。後発薬の普及に向け、コスト減につながる具体的なデータを含め、丁寧な情報開示が求められる。

◇            ◇

■後発薬とは 特許切れの有効成分使用 開発期間短縮、価格安く

後発医薬品(ジェネリック)は、特許が切れた先発薬と同じ有効成分を使って作られた医療用医薬品。欧米では、医師が薬の有効成分である一般名(ジェネリック・ネーム)で処方することが多いことから、ジェネリックと呼ばれるようになった。

先発薬は、一般的に長い開発期間と数百億円の研究費をかけて作られる。一方、後発薬は特許が切れた後に先発薬の有効成分を使って作るため、開発費用は安く、価格も3~5割ほど安い。

先発薬が独占販売できるのは事実上10年程度とされる。ただ、先発薬と後発薬は厳密には全く同じ薬ではない。先発薬の有効成分に関する特許が切れても、製法や使用する添加剤の特許が残っている場合などがあるためだ。後発薬の有効性や安全性については、先発薬と同等であることを証明する試験を受ける。

(吉田三輪、平野慎太郎、山崎大作)

[日本経済新聞朝刊2015年5月24日付]

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