名作家具、私の部屋にも置きたい
復刻品なら手が届く
「デンマークのハンス・J・ウェグナーは生涯に500以上の椅子をデザインした、椅子の父とも呼ばれる人です」と、客に復刻した「ザ・チェア」の作者について語るのは、E-comfort(イーコンフォート)東京ショールーム(東京・千代田)の橋本広治店長。店内には、どこかで一度は見たことのある名作家具のジェネリック品がずらりと並ぶ。
ジェネリックと聞くと、特許期間の切れた後発医薬品を思い浮かべる人が多いだろう。ジェネリック家具はその家具版だ。「ブランドにこだわらない」という言葉の意味どおり、意匠権の保護期間が切れたデザイン家具を、正規メーカー以外のメーカーが作っている。リプロダクト家具とも呼ばれ、保護期間内の違法なコピー品とは異なる。
意匠とは物の形状や模様、色彩に関するデザインなどのことで、新規性や創造性が特許庁に認められると意匠権が生じる。日本の権利保護期間は20年で、その間は権利を持つメーカーしか作ることができないなどの制約がある。
脚がクルミ材で座面がレザーの「ザ・チェア」は、「オリジナルが95万円以上なのに対し、素材が同じ当社のジェネリック品は10万400円」と橋本店長。革張りのクッションに金属パイプを組み合わせた、ル・コルビュジエの椅子「LC2」はオリジナルが79万9200円からなのに対し、同店は16万7400円からという価格設定。人件費の安い中国の工場に、オリジナルをもとにしたデザインで発注して実現した。
正規品は圧倒的な完成度があるが、「高価すぎて手が出ない」「購入しても気軽に使えない」という声もある。橋本店長は「家具は美術品ではなく、くつろぐための道具。ジェネリック品は手ごろな価格で優れたデザインに親しみたい人の選択肢になる」と話す。
店を訪れた菅原美穂さん(35)は自宅用にイサム・ノグチの「コーヒーテーブル」、実家の店舗用にアルネ・ヤコブセンの「セブンチェア」を買った。「大好きなデザイン家具を身近に置いて楽しみたいと思っていた。品質が確かなジェネリックなら長く愛用できる」と話す。
実店舗で 見て触って
低価格が魅力のジェネリック家具だが、メーカーによって品質差が大きい。「激安価格にひかれてインターネットで買ったら、粗悪な素材が使われていた」「サイズが違った」「使い心地が悪かった」「すぐ壊れた」などという話も。返品や修理に応じない場合があるので要注意だ。
まずは現物を見て触って確かめられる実店舗で買うのが望ましい。イーコンフォートは、「中国の製造元へ何度も行き、品質管理を徹底している」(橋本店長)という。ソファがへたったら中のクッションだけ交換するなど、柔軟なアフターサービスが売りだ。
インテリアショップが多い東京の目黒通りにも、復刻版の家具を扱う店がある。イームズの「シェルチェアDSW」が7020円からと手ごろな価格で買えるesq(エスク)目黒店や、フランク・ロイド・ライトの床置き照明「タリアセン」など他店にはあまりない商品が並ぶstacks(スタックス)だ。
個性の強い家具をどう取り入れたらよいか、など相談できるのも店ならでは。作品によっては、正規品にない素材や色のバリエーションもある。部屋のイメージを伝えるとよい。「他のインテリアと色や素材をそろえれば、上手に調和させられる」(橋本店長)。
長く愛されてきた名作には、部屋をぐっとおしゃれに変える力がある。家具選びの選択肢にどうだろう。
(ライター 松田 亜希子)
[日経プラスワン2015年5月16日付]
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