口の渇きの悩み リラックスした食事、最良の薬

年を取るにつれ、唾液が出にくくなり、口の中の渇きに悩んでいる人は少なくないだろう。口の環境悪化は、歯周病や虫歯のリスクを高めるだけでなく糖尿病など全身の病気にも関係していることが分かってきた。専門家は唾液減少の原因は加齢より生活習慣にあるという。口のうるおいを保つ心がけと、唾液を出す簡単な運動をまとめた。

「最近、『食べ物の味を感じられない』『舌ががさついて痛い』と訴える人が増えている。唾液が少なくなっていることの表れだ」と話すのは、九州歯科大学老年障害者歯科学分野の柿木保明教授。ほかに「ビスケットやパンが飲み込みにくい」「口臭がする」「ネバネバする」「ニッコリ笑った時に口が戻りにくい」「乾燥する感じが1カ月続く」のも唾液減少のサインだという。

■ストレスは禁物

加齢によるものと決めつけ、あきらめがちだが、「健康ならば、年を取っても唾液は出る。減少の主な原因はストレスや服薬、生活習慣の乱れにある」と柿木教授は話す。口が渇いた状態のことを口腔(こうくう)乾燥症(ドライマウス)ともいうが、多くは病気ではなく、生活習慣で改善が可能だという。

唾液は耳下腺、顎下(がっか)腺、舌下腺と呼ぶ3つの唾液腺から出る。口の中に食物が入ると機械的刺激や味覚による刺激で出る。また、食べ物を見たり、においを嗅いだり、連想したりするだけでも出る。「唾液分泌を左右するのは交感神経と副交感神経の自律神経の働き」と日本大学歯学部摂食機能療法学講座の植田耕一郎教授。

交感神経は体の臓器や筋肉などを興奮させる方向に、副交感神経はリラックスさせる方向に働く。副交感神経が活発になれば、サラサラした唾液が出て消化作用も助ける。例えば、「家族や友人と会話しながら好きな物を食べている時サラサラな唾液分泌が多く、緊張感のある食事は唾液が抑制されていてネバネバしてくる」(植田教授)。

これはストレスを感じて交感神経が強く働いているからだという。「ストレスから歯を食いしばると、唾液がネバネバになって口が渇くので注意が必要だ」と柿木教授も指摘する。

次に、唾液を減らす原因で多いのは薬による影響だ。胃酸を減らす薬、花粉症の薬、血圧の薬、睡眠剤、抗うつ剤、糖尿病の薬などは口が渇くという。アレルギーの薬は口の渇きはすぐ起きるが、「飲んだからといってすぐ渇かず、数年たって出る薬も多いので気がつきづらい」と柿木教授。眠くなる薬にも気をつけたい。植田教授は「寝ているとリラックスして唾液が出やすいように感じるが、眠っている時は唾液は出ない」と話す。

薬が原因とみられる場合、医師や薬剤師と相談して減薬し、運動や食生活の見直しで生活習慣病を改善するのが先決だ。植田教授は「10種類以上の薬を飲んでいる人でも、減薬で唾液が増えた事例が多い」と話す。

■歌も効果的

口の中の病気と心の病気を合わせて治療しようという心療歯科の歯とハートクリニック(東京・港)の渡辺和代院長は、「一人暮らしの人や夫婦で会話が少ないと唾液は出にくいことが多い。歌を歌う、週に1回でも友人とおしゃべりをして食事をするなどしてほしい」と助言する。

唾液が減ってきたと感じたら、「笑顔で食事をしているか」「姿勢が前かがみで舌が歯に当たって緊張していないか」「良くかんでいるか」「運動をしているか」などをチェックするとよい。心配なら、医療機関で量に問題が無いかどうか調べてもらう方法もある。

水をたくさん飲んでも唾液は出ない。「逆に舌がはれぼったく、水ぶくれになり、唾液のまわりが悪くなる人が多い」(柿木教授)

植田教授は25年間、リハビリを指導してきた経験から、簡単な口のストレッチを勧める。「体や口に麻痺(まひ)が残っていても意識して笑顔をつくり、感情を込めた運動で副交感神経が刺激され唾液が出ることを発見した」と話す。ポイントは「ほほ笑み」の顔をつくってから始めることだという(上図参照)。

唾液の役割は様々。消化酵素で食べ物を胃や腸で消化しやすくなるようにするほか、口から入るウイルスや細菌の増殖を防ぐ。酸性になりがちな口の中を中性に戻して、虫歯や歯周病になりにくい環境に保ち、唾液に含まれる成分は歯の表面のエナメル質を修復する。唾液は健康のバロメーターと考え、潤滑に出るようケアを心がけたい。

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更年期の女性、免疫病のことも

女性の場合、月経の直前や月経時に普段よりも強く喉の渇きを感じる人が多いといわれる。この時期は卵巣から出る女性ホルモンの一つ、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増える。ホルモンのバランスが変わることが、唾液を出すために働く自律神経にも影響し、唾液が減るという。

一方、40代後半の更年期にさしかかった女性が気をつけたいのが、口の渇きとともに、目も乾く「シェーグレン症候群」。自分の体を免疫細胞が攻撃して起きる自己免疫疾患だ。原因は遺伝やウイルスのほか「ホルモンの影響もあると考えられている。念のため診察を受けてほしい」と渡辺院長は話す。

(ライター 高谷 治美)

[日経プラスワン2015年5月9日付]

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