連休の渋滞、対策に決め手は

「ゴールデンウイーク(GW)に家族でドライブに行こうと思うのですが、この時期の道路は渋滞が大変です」。近所の会社員が事務所でため息をついた。「たしかに問題ね。打つ手はないのかしら」。探偵の深津明日香は調査を始めた。

遠回りでも同じ料金に

明日香はまず東日本高速道路会社(NEXCO東日本)の関東支社を訪れ、今年のGW中の渋滞状況を尋ねた。

「今年は渋滞が例年より増えると予想されています」。渋滞予報士の加藤寛道さん(31)が教えてくれた。GW中に全国の高速道路で発生が予測されている渋滞(長さ10キロメートル以上)は330回。昨年実績より46回増える見込みだ。GW後半が5連休となるため遠出が集中しやすいという。

「何か対策はしているのですか?」。明日香の問いに「もちろんです」と加藤さん。代表的な取り組みは渋滞の起こりやすい合流部などで車線を増やす追加工事だ。また道路の渋滞予測を事前に公表し分散利用も呼びかけている。

2013年からは東京湾アクアラインで新しい試みも始まった。上り坂は車の速度が自然に低下するため、渋滞が発生しやすい。そこで道路の壁面に並べたライトを車の進行方向へと流れるように一定速度で点滅させる。こうすると、ライトに並行して走る車の運転手は速度の低下に気づきやすくなる。路線全体で渋滞が約2割減ったという。

「色々な対策が考えられているようね。これで渋滞はなくせるのかしら」。加藤さんは「これから日本の人口は減少していくため、長期的には渋滞も緩和します。しかし交通量がすぐ大きく減るわけではないので地道に対策を続けていくしかないでしょう」。

明日香は首都高速道路会社にも話を聞きに行った。都心環状線の外側で建設が進む3つの環状道路のうち、最も内側にある首都高中央環状線が3月7日に全線開通した。「都心環状線に集中していた交通量が分散し、中央環状線の内側では渋滞や混雑が5割減りました」。渋滞対策課の須藤肇さん(45)はこう話す。

建設中の3環状道路には、ほかに東京外郭環状道路(外環道)と首都圏中央連絡自動車道(圏央道)がある。首都圏の交通事情を大幅に改善させると期待されており、東京都は五輪が開かれる20年までに3環状全体の9割を完成させる目標を掲げる。

明日香は図書館で3環状道路の歴史を調べてみた。すると、計画が立てられたのは半世紀以上も昔の1963年。用地取得の難航などで、計画はたびたび延期されてきた。「たしかに効果は大きいけれど、なかなか一朝一夕にはいかない事情もあるようね」

明日香は事務所で所長に報告した。すると「そういえば高速道路の料金制度は来年度から変わるらしいな。渋滞を緩和する狙いもあると新聞記事に出ていたぞ」。こう突っ込まれ、明日香はあわてて国土交通省に確認に行った。

「国交省の有識者会議で、今年の1月に見直しの基本方針が示されました」。高速道路課の依田秀則さん(38)が経緯を説明してくれた。

現在、首都圏の高速料金は長く乗っても均一の「定額制」、走行距離が長いほど高くなる「距離連動制」などが混在している。16年度からは、出発地と到着地が同じなら途中でどのルートを通っても料金は同じになる「同一発着・同一料金」に統一する。「都心を通らず外回りで迂回すると割高になっていたのが同じ料金で済むようになり、都心の混雑緩和が期待できます」

混雑時間、割り増しも検討

東京五輪の開催などをにらんだ2段階目以降の改革案もある。混雑しやすいルートほど利用料金を高く設定したり、リアルタイムで道路状況を調べて混雑時間帯だけ機動的に料金を高くしたりするアイデアだ。すいている道路の料金は逆に安くして、利用者の分散を促す狙いがある。

「需要が多いほど価格も高くなるイメージね。合理的だけど、今まではどうしてできなかったのかしら」。明日香は国交省の有識者会議のメンバーにも話を聞きに行った。

「混雑している道路への課金は『ロードプライシング』と呼ばれ、交通経済学では当たり前の考え方です」と話すのは一橋大学教授の根本敏則さん(61)。「混雑している場所や時間帯を特定するのが難しかったけど、自動課金システムといった技術の発達が可能にしてくれました」

海外ではシンガポールやロンドンなどでロードプライシングが導入され、渋滞緩和に効果を発揮しているという。東京大学教授の家田仁さん(59)も「これからの日本は交通需要の流れをマネジメントし、道路を賢く使っていくことが欠かせません」と語る。

国内でも観光客の流入による道路渋滞に悩む神奈川県鎌倉市が、20年を目標にロードプライシング導入を検討中だ。住民の合意形成や法律面などの課題はあるが、「過去に実施した調査によると、1台あたり千円の課金で自動車の進入を35%減らす効果が期待できます」と交通計画課長の宮崎隆さん(59)。

「課金制度には効果が期待できそうですが、実現にはもう少し時間がかかりそうです」。明日香が報告すると、所長がポツリと一言。「今年のGWには間に合いそうもないな。やっぱり自宅でゴロゴロしているほうがいいか」

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ビッグデータ活用に期待

道路渋滞が緩和できれば、日本経済にも大きなメリットが期待できる。

国土交通省の試算によると、道路渋滞に巻き込まれることで日本人が1年間に失っている時間(渋滞損失時間)は1人あたり40時間。車で移動している時間全体の約4割に達し、欧米の主要都市(約2割)と比べても高い比率だ。日本全体でみれば約50億時間、280万人分の労働力が渋滞によって失われている計算になる。金額換算では約11兆円に相当する。

渋滞の緩和は、関連企業にとっての新たなビジネスチャンスでもある。

NTTグループは自動車や歩行者の移動情報をビッグデータとして活用し、数十分~数時間先の渋滞・混雑発生を予測する研究開発プロジェクト「himico(ヒミコ)」を2月に立ち上げた。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の主席研究員、上田修功さん(56)は「カーナビによる誘導や、信号制御などで渋滞発生を防ぐシステムの開発につながる可能性があります」と話す。

経済成長が続くアジア諸国でも渋滞は問題になっている。三菱重工業・ICTソリューション本部の副本部長、戸田裕之さん(55)は「関連市場は順調な成長が見込まれます」と期待。道路課金などを組み合わせた高度道路交通システム(ITS)の輸出を目指し、マレーシアなどで近く実証試験に乗り出す方針だ。

(経済解説部 本田幸久)

[日本経済新聞朝刊2015年4月28日付]