健康手帳、工夫広がる 自分の身体データ管理

自分の健康情報を蓄積し、病気の予防や悪化防止に役立てる「健康管理手帳」の活用が広がっている。背景には建康を自己管理し、医療機関を適正に受診してもらおうという国の施策がある。使い勝手をよくする工夫を凝らす自治体も多い。心不全や糖尿病など特定の疾患に特化した手帳も作られ、患者の療養を支えている。

健康管理手帳は、幼少期から老年期まで長期間のデータを引き継ぐことで生活習慣病予防に役立て、医療費の伸び抑制につなげるのが狙いだ。2003年施行の健康増進法が「健康手帳」として規定し、市町村に配布を求めている。「お薬手帳」と同じ文庫本の大きさ(A6判)が多く、長寿社会開発センター(東京・港)が作った標準タイプを配布する自治体(約150市町村)と、独自に作成する自治体がある。

内容は一般的に(1)住民検診やがん検診など健康診査の記録(2)自己測定した血圧、体重などの記録(3)健康相談・健康教育の記録(4)医療機関の受診、服薬などの記録(5)健康維持に関する情報――などで構成される。

■ファイル式増える

患者の「健康ファイル」を見ながら診察する原院長(新潟県阿賀町の県立津川病院)

近年は継続的に蓄積・保管できるようファイル形式にする例が目立つ。

「血圧は安定していますね」。新潟県立津川病院(同県阿賀町)の内科診察室。原勝人院長が水色のファイルに目を通し、患者の遠藤勲さん(77)に声をかけた。09年から通院している遠藤さんは、朝夕2回血圧を測って「健康ファイル」に記録。受診時に原院長に見せ、当日の採血検査の結果とともに説明を受ける。「結果はファイルにはさみ、厚くなると自宅のファイルに移す。7年分の記録を残していることになり、安心」と遠藤さん。

健康ファイルは同病院が08年に考案した健康管理手帳で、各種検査の結果や医師の病状説明書などをはさむほか、ジッパー付きのビニールケースの中に保険証やお薬手帳、血圧手帳などを入れられるようにした。外来患者の約半数が持参し、町内の約1000人が使っているという。他の医療機関で受けた診療や処方が分かり、「重複検査や処方を避けられ、医療資源の無駄を省ける」(原院長)。

山梨県甲州市の健康管理手帳は金属リングのプラスチックファイル。「住民検診の結果をとじ込みやすくするためにファイル形式にした。数値の推移が経年的につかめ、健康管理に役立つ」と健康増進課の雨宮久美子さんは話す。

検診結果以外にも毎日の体重、血圧、歩数などを記録する用紙をとじ込む仕組み。用紙が一杯になったら市のホームページからダウンロードして追加するなど、利用者の使い勝手をよくする工夫が随所に見られる。市町村合併により甲州市が誕生した05年に現在の手帳をつくり、延べ2000冊以上を配った。

■ワクチン証明保管

住民健診で異常が見つかった人には地域の公民館に来てもらい、保健師や栄養士が医師の受診を勧めたり生活習慣改善を指導したりする。その際には約半数の人が持参するという。

東京都国立市は08年、ファイル形式にして、長期保存が必要なワクチン接種の証明や市の健康予防施策を知らせる欄も設けた。市内の主婦(52)は「以前は欄がいっぱいになって記録をやめてしまったが、新しい手帳は用紙を増やせるなど使い勝手が良く、続けられる。健康についてより意識するようになった」と話す。

予防医療に詳しい栃久保修・横浜市立大学名誉教授(社会予防医学)は「高齢化に伴う医療費の増加を考えれば、生活習慣の改善による疾病予防は極めて重要。そのためには生活習慣を見える化(数値化)して改善努力を促すのが有効だ」と指摘する。

今は紙の手帳方式が主流だが、今後はデジタル化の流れも進むとみられ、新潟県立津川病院の原院長は「個人の健康情報はIT(情報技術)化した方が持ち運びに便利だし活用の可能性も広がる」と話している。

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ぜんそく、糖尿…疾患特化も

特定の疾患に特化した健康手帳もある。(1)自分で測ったデータの蓄積(2)かかりつけ医と専門医との情報共有(3)病気についての正しい知識の提供――が狙いだ。

自治体が配布する健康手帳の例

ぜんそく患者向けには環境再生保全機構(川崎市)が日本アレルギー協会と共同でつくった「ぜん息日記」がある。ぜん息の状態を把握する指標「ピークフロー値」(勢いよく吐き出した時の息の速度)を自己測定して折れ線グラフにするほか、ぜん息発作や薬の使用状況を書き込む。

日本心不全学会(東京・文京)の「心不全手帳」は、心不全の基礎知識から、検査、治療法、生活上の注意点などを解説した「連携手帳」と、毎日の血圧、体重、脈拍、自覚症状などを記入する「記録手帳」の2冊組。同学会事務局によると、12年から累計12万セットを作成し、主治医を通じて患者に渡されたという。

日本糖尿病協会(東京・千代田)は血糖値の自己測定結果を記録する「糖尿病自己管理ノート」を発行。食事前後と睡眠前の1日7回記録する。用紙は複写式で、1枚を受診時に医師に渡し、日々の状態を伝える。

肝臓病でも栃木県、静岡県、岐阜県などで専門医が監修した肝臓病患者向けの手帳を作成。また神戸市長田区は14年3月、認知症患者の家族と医師、ケアマネージャーらが患者情報を共有するための「脳のすこやか健康手帳」を発行した。

(編集委員 木村彰、村上徒紀郎)

[日本経済新聞夕刊2015年4月23日付]

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