フューチャー・オブ・マインド ミチオ・カク著心と意識の本質探る脳科学の最前線

2015/4/20

心・知能・感情・思考・意識などについて脳研究がどこまで明らかにしているかについての本はゴマンと出ているのだが、いつも隔靴掻痒(かっかそうよう)という感じがしていた。専門家が書くと、確かに研究の進展ぶりはよくわかるのだが、脳神経科学神話に陥らない配慮のためか、あれもこれもと盛りだくさんに詰め込んで断定を避けるという書き方のためである。

 しかし、本書は違う。理論物理学者である著者が脳科学研究の最前線を取材し、物質の反応として心や意識の本質をつかみ取ろうという観点で脳の働きを描いているからだ。むろん、現在わかっていないことがまだまだ多いが、著者は大胆に現在の知見を拡大して延長し、未来はこうなるであろうと単純に提示しているから、知らず知らずのうちに納得させられてしまうことになる。

 脳研究においては、MRI(磁気共鳴撮像)、脳波計、PET(陽電子放出断層撮影)、脳磁計、脳深部刺激術など、脳を傷めずにその働きや反応を調べる手法が数多く開発され、脳のどの部分がどのような機能を担っているかの詳細が明らかになりつつある。それぞれ時間や空間分解能などに一長一短があるが、それらを組み合わせれば脳内の意識活動が手に取るようにわかってくるであろうと著者は予測するのだ。

 例えば、直接の伝達手段を使わず、脳内活動を計測することだけで心の動きを伝えるテレパシーが実現できるだろうと言う。脳の活動とは脳内の電子が動くことを意味し、電子が動けば電磁波が発せられる。その電磁波を脳波計や脳磁計でキャッチして分析すれば何を考えたかがわかり、MRIで脳の視覚皮質が光ることをスキャンすれば思考の推移だって読み取れ、皮質脳波を測定すればその電気的パターンから心の呟(つぶや)きを聞き取ることができるというわけだ。これらの計器を全て装着したヘルメットを着用すれば、究極においてテレパシーで文章や楽譜を書くことができるし、互いに対話だってできるようになるかもしれない。心だけでなく、脳内計測を通じて記憶や夢、知能や感情などについても同じようにして把握できる可能性があると言う。むろん、それはまだずいぶん先の話だが、まさに理論物理学者らしい切り口で脳研究の行く末を語ってくれるので、SF以上に現実性が感じられることになる。

 しかし、実際にそこまで脳研究が進んでしまって、果たして人間は幸福になれるのだろうか。

(名古屋大学名誉教授 池内 了)

[日本経済新聞朝刊2015年4月19日付]

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

著者:ミチオ・カク
出版:NHK出版
価格:2,700円(税込み)