大人も発症する斜視 疲れ目が続いたら受診を

モノを見たときに両目が同じ方向を向いていない状態を斜視という。片方は真正面を向いているが、もう一方は意識しなくても自然と別の方向に向いてしまう。子どもの生まれつきの病気と思われがちだが、成人後、加齢や交通事故などで斜視になる例もある。眼球を支える筋肉の衰えや神経の異常などで起きる。目の疲れが長引くので受診したら斜視が原因だったという人もいる。多くは手術で改善するので、気になる場合は医師に相談しよう。

「どっちを見ているの」。関東地方に住む主婦のAさんはある日、喫茶店で友人からこう言われた。自分では違和感はなく気づかなかったが、正面に座った友人から見ると、左の黒目だけが外側に向いていた。そういえば5年前ほどから目が疲れやすくなっていた。

心配になり近所の眼科を訪れると「間欠性外斜視」と診断された。普段、両目の向きは正常だが、たまに自然と左の目が外側にずれるタイプだ。これが目の痛みやかすみ、充血などの症状が出る眼精疲労の原因とも考えられた。医師は「生まれつき目立たない程度の外斜視の傾向はあったが、年齢とともに目の位置を正面に保つ力が弱まったのだろう」と説明した。Aさんは後日、大学病院で手術を受け、斜視も改善した。

■片方の目だけが時々

斜視は日本人の2~3%にみられ、一般に子供の病気というイメージがある。ただ間欠性外斜視は成人にも多い。いつも斜視の状態にある「恒常性斜視」に対し、片方の目だけが時々外側に向くため、こう呼ばれる。帝京大学の林孝雄教授は「生まれつき斜視の傾向を少し持つ人が、治さずに放っておくと発症する例がある」と説明する。Aさんもこのケースだと考えられる。

眼球は「外直筋」や「下斜筋」など6本の筋肉で支えられている。これらの筋肉の働きで眼球は上下左右、斜めなどさまざまな方向に自由に動かせる。斜視でなければ両目の方向はほぼ同じだが、何らかの原因で片目が別の方向を向くことがある。筋肉や神経、視力の異常など斜視になる原因は幅広い。

斜視の中には「隠れ斜視」と呼ばれる「斜位」というものもある。斜位は普段、両眼視はできているものの、片目を覆い隠すともう片方の目の位置が上下左右にずれてしまう状態だ。眼精疲労の原因となる。梶田眼科(東京・港)の梶田雅義院長は「斜位の人はスマートフォンの画面を片目に近づけて見ることが多い。それが眼精疲労を蓄積させている」と指摘する。

人は通常、左右それぞれの目でモノを見て、その映像を脳で処理して1つに統合している。このため普段は2つの目を使っていることを意識しない。だが、斜視では両眼視が難しくなり、目の前にあるモノの遠近感や立体感がつかみにくくなる。

■筋力の衰えで表面化

違和感を解消するため、自然と斜視がある片目を元の位置に戻そうとする。若い頃は筋力があるのでそれほど問題はないが、年をとるに従って力が弱ると、眼精疲労がたまりやすくなる。この結果、「片方の目の位置が外側にずれる状態が増え、第三者が気づきやすくなる」(林教授)。筋力の衰えで眼球を元の位置に戻せなくなり、時々だった斜視が、いつも起こるようになってしまう。

斜視は、どの筋肉に異常が生じるかなどで眼球が向く方向が変わる。正面を見た際、片方の黒目が内側に向く「内斜視」や外側に向く「外斜視」などがある。生まれつきの先天性に加え、交通事故や病気などで神経が傷んで斜視になる後天性がある。

後天性のうち、モノが2つに見える複視が起きやすいのが「まひ性斜視」だ。目の動きに関係する動眼神経、外転神経、滑車神経のいずれかがまひを起こし、関連する筋肉の働きが妨げられる。林教授は「糖尿病など生活習慣病が引き金となり発症する場合もある」と話す。ものが二重に見える場合は、脳内の血管が詰まっていることもあるので、早めに病院を受診することが大切だ。

治療では、まず光を正面からあてて斜視の状態を確認する検査などを実施する。斜視と判断された場合は、矯正用のプリズム眼鏡などを検討する。これはレンズにプリズムを組み込み、光を屈折させることで見え方を変える特殊な眼鏡だ。

斜視の程度が大きい場合などは手術も検討する。梶田院長は「大半の斜視は治療で改善が可能だ。手術で眼球を動かす筋肉を短くしたり、位置を変えたりする」と説明する。これにより、眼球を引っ張る力を弱めたり強めたりする。斜視の種類で手術のやり方も異なってくる。間欠性外斜視では入院は3日程度が多く、日帰りできる例もあるという。

斜視の患者は外見が気になる場合も多い。早めに専門家に相談するとよいだろう。

(山本優)

[日本経済新聞夕刊2015年4月17日付]

ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント
注目記事
ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント