新国立劇場「ウィンズロウ・ボーイ」ひたむきな演技 光る

わずかなお金をくすねたかどで息子が退学させられた。「やってない」と言いはる子を親は信じ抜けるか。巨額の費用をかけ、平穏な日々を犠牲にしてまで訴訟を続けられるのか。ひたむきな演技が光る3時間余の室内劇だ。

第1次大戦目前のロンドン、ウィンズロウ家。海軍士官学校相手の家族の闘いは世間の笑いぐさとなるが、議会を巻きこむ重大事件に。実話に基づく英国人家族の苦難は、長いものに巻かれろ式の現実追随が広がるこの国で今まさにリアルに感じられる。

いつもは実直な脇役をつとめる小林隆が主役にまわって水際だった演技だ。元銀行家の厳格さが息子を守る力に鮮やかに転じる。足がなえていく時間と気力の残り火を確かめるセリフのハラ。婦人参政権運動にかかわる娘は結婚話が進まない。新国立劇場演劇研修所出身の森川由樹の好演に目を見はる。シンとした心の静けさはやがて父への共感を生む。演出の鈴木裕美、翻訳の小川絵梨子が生みだす素晴らしい演劇のしじまだ。

快演に驚いたのは敏腕弁護士役の中村まこと。胡散(うさん)臭さをまといつつ、胸の奥底に燃える人間的な感情をにじませる。竹下景子の天真爛漫(らんまん)さ、渡辺樹里の愛すべき頓狂さ。

4年前に生誕百年を迎えた作者テレンス・ラティガンに心酔する演出家だけに、皮肉なウイットと人間愛を併せもつセリフを丹念にすくいあげる。喜劇の基調を保ち、時に大ぶりの演技を交えて劇を沈み込ませない。この演出家の変わらぬ持ち味だ。前半の雨と雷鳴、後半の穏やかな光(笠原俊幸照明)が雄弁。

地道に演技を勉強した研修所出身者を配して練り上げた舞台成果がうれしい。26日まで、新国立劇場小劇場。

(編集委員 内田洋一)

注目記事
今こそ始める学び特集