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エコノ探偵団

空港民営化、何がメリット?

2015/4/15 日本経済新聞 朝刊

「最近、地方空港が民営化されるという話をよく聞きますが、何が変わるのでしょうか」。国内出張の多い会社員の話に探偵、深津明日香が反応した。「乗降客への影響は気になりますね。調べてみましょう」

■運営権与え着陸料 自由に

まず国土交通省を訪ねた。空港経営改革推進室の飯沼宏規さん(35)は「国の管理空港では仙台や高松、広島空港などについて民営化の検討が進んでいます」と説明。「枠組みは2013年施行の民活空港運営法に基づきます。完全民営化と違い、運営権を与えるコンセッションと呼ぶ手法です。災害時に国が関与できるよう滑走路などの所有権は国に残します」と話した。

国管理空港では着陸料などの使用料は国がほぼ一律に決める。また滑走路は国、空港ビルは自治体出資の第三セクターが所有・運営するなど、各施設の運営主体はバラバラだ。「民営化後は民間が各施設を一体で運営し、着陸料も自由に決めます。空港ビルの物販収入を原資に着陸料も低減でき、就航路線の拡大などが見込めます」と飯沼さん。

国の管理空港で民営化作業が最も進んでいるのは仙台空港で、国は8月に運営権者を決める方針。来年3月に運営を委託する見通しだ。

■LCC路線拡大に期待

地元の意見を聞こうと、明日香は宮城県に向かった。県空港臨空地域課の課長補佐、関剛史さん(46)は「東北地方の定住人口は今後大きく減少します。その分、観光などの交流人口を増やす努力が必要です。羽田便のない仙台空港では、民間委託で中部地方以西や海外との路線の充実や新たに格安航空会社(LCC)の路線が拡大することを期待しています」と話した。

「利用する住民はどうかしら」。明日香は仙台空港を年10回弱利用するという仙台市の会社経営の男性(65)に話を聞いた。「先日徳島県に出張した際、直行便がなく、山形空港から羽田空港を経由して徳島空港に降りました。マレーシアには韓国の仁川空港などを経由しました。民営化で直行便を増やしてほしい」

仙台空港について宮城県は民営化30年後に乗降客数を年600万人(13年度は316万人)に増やすなどの目標を掲げる。第一生命経済研究所主席エコノミストの永浜利広さん(43)は「実現すれば県内総生産を約330億円、0.4%押し上げます。ただし相当に高い目標です」と指摘した。

明日香は公共施設の民営化に詳しい日本総合研究所の主席研究員、岡田孝さん(57)を訪ねた。「日本の空港民営化はストック(施設)の初期費用がなく、民間が参入しやすいのが特徴です。一般に30年以上にわたり運営を委託しますが、いかにフロー(収益)を増やすかに尽きます」と岡田さん。追加投資については「維持更新は民間が、耐震化などは国や自治体が担います。社会資本を官民が連携して担う時代になったのです」と指摘した。

次に、東京大学教授の柳川範之さん(51)に聞くと「経済学的には民間企業が支払う運営権価格が適切かどうかが重要です」と説明。「競争入札は本来、最も高い価格を付けた企業が落札します。最も効率的に経営し、最も収益を増やせる企業だからこそ、将来収益の現在価値である運営権価格を最も高く設定して応札できると考えます。仙台空港の場合は最低価格が1円ですが、運営権価格と民営化後の収益の関係は注視する必要があります」と指摘した。

国の集計では、着陸料収入を柱とする空港の航空系事業の12年度の経常損益は、国の一般会計からの繰り入れがない場合、27の国管理空港のうち24が赤字。空港ビルの物販収入など非航空系事業を合わせても19が赤字だ。仙台空港は30億円の赤字、高松空港は3億円の赤字。「いくら民間企業でも経営は簡単ではないはず」と明日香は思った。

みずほ総合研究所主任研究員の阿部純哉さん(38)に空港経営の見通しを聞くと「滑走路や駐車場、空港ビルなどを一体運営することで、管理部門だけでなく現業部門でも重複している部分のコストを削減できます。収入を増やすことが最大の使命ですが、コスト削減の余地も小さくありません」と教えた。

一方、航空・空港行政に詳しい慶応義塾大学教授の加藤一誠さん(50)に会うと「乗降客の少ない空港の黒字化は簡単ではありません」と話した。「乗降客数と収益の間には強い相関があります。乗降客が多い空港は着陸回数も多く、空港収入も多いのです。ある団体の推計では現状の国管理空港で損益分岐点となる乗降客数は年250万~260万人です」と加藤さん。250万人以上の国管理空港は11にとどまる。

損益分岐点を下げるには着陸料引き上げや、空港内消費の増加、コスト削減などがある。加藤さんは「多くの空港は着陸料の引き下げが期待されています。そうした中で、いかに損益分岐点を下げるか、またどこまで乗降客を増やせるかが課題です。ただ民営化だけで乗降客が大幅に増えるわけではありません。地域の魅力を高めることが最大の条件です」と強調した。

事務所で報告した明日香が「探偵業も魅力ある調査が必要です」と言うと、所長が「難しい問題じゃ。一度経営委託するのもいいかもしれん」。

◇            ◇

■一部では経営悪化懸念も

空港の民営化は近隣の空港間競争を促す可能性がある。

仙台空港の民営化で着陸料が下がり新規路線が増えれば、山形空港などから乗降客がいま以上に流れるとの懸念がある。広島空港や高松空港が民営化すれば、中国・四国地方で路線誘致合戦が起き、場合によっては近畿や九州も巻き込んだ訪日客の獲得競争が起こるとの見方もある。

民営化で新規就航が期待されるのが格安航空会社(LCC)だ。バニラエアの石井知祥社長(65)は「着陸料などはLCC向けの料金体系を導入してほしい」と話す。その上で、定期便の就航は「地元自治体の支援体制なども勘案して決める」と言う。

みずほ総合研究所の阿部純哉氏は「空港が赤字でも公共性の点で国が補填すればよいという考えもあるが、会社が破綻するかもしれないという危機感がないとサービスは向上しない」と説く。

空港間競争は一部空港の経営悪化につながる。関西学院大学の野村宗訓教授(56)は「民営化は1空港単独より、複数空港に一括売却するのが望ましい。海外ではスペイン企業がヒースローを含む英4空港を経営するなど、1社が複数空港を運営し、互いに財務面で支え合ってきた。災害の多い日本ではリスク分散のためにも、空港の経営統合が今後、検討されるべきだ」と指摘している。

(経済解説部 福士譲)

[日本経済新聞朝刊2015年4月14日付]

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