心の兆候知り 発症前に対策 社員のストレスチェック 職場の環境改善に期待

12月から、社員に仕事でどのくらい精神的負担がかかっているかを確かめるストレスチェックが従業員50人以上の事業所に義務付けられる。職場でのストレスから健康を損ねる社員が増えていることなどが背景にあるが、社員としてはどのような検査を受けて判定されるのかなど不安も多いはず。心の健康を保つために、どのように活用したらいいだろう。

■医師が企業に助言

実施が義務付けられるストレスチェックは、企業の健康診断のときなどにチェックシートで受けることになる。「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「最近1カ月は元気いっぱいだ」「上司とは気軽に話ができる」などの質問に「はい」「ちがう」など4段階に区切られた回答を選択。一定の点数以上だとストレスの高い状態だと判定され、産業医などとの面接を勧められる。医師は面接の後に社員と企業にストレスを減らすように助言。企業は助言に従って負担軽減などの措置をとる。

厚生労働省産業保健支援室の中村宇一室長補佐は「うつ病などになる前段階でストレス度合いを把握しようというのがストレスチェック」と狙いを説明する。厚労省はストレスチェックのために57項目の質問でできた調査票を作成し、これまでに約20万人分のデータを蓄積。質問に回答すると自動的に点数を計算してリスクの度合いを示すソフトをホームページで公開する準備も進めている。

ただ、ストレスチェックを受けたからといって、すぐにその結果が勤務時間の短縮など職場での処遇などに反映されるわけではない。健康診断と違って、チェックの結果は企業ではなくチェックを実施した医師や検査機関が保管する。またストレスが高いと診断されて医師と面接した場合も、医師が企業に業務の軽減などの意見を出す場合は、本人の同意が必要だ。

ストレスチェックの義務化は2014年6月に公布された労働安全衛生法の改正に盛り込まれた。従業員50人以上が対象となるのは、産業医が必要な事業所の規模と合わせたためだ。

以前から厚労省は企業にストレスチェックなどの対策の実施を奨励してきた。しかし導入が進まない一方で、職場でのストレスが原因となる労働災害の申請や認定、さらに自殺者が増えてきた。厚労省の統計によると仕事のストレスなどからうつ病など精神障害を起こしたと労災を申請した件数は、2009年度に1千件を超え、13年度は1409件で過去最高。実際に認定された数も13年度で436件に達している。「自動車のように積極的に取り組んでいる業界もあるがごく一部。すでに導入している企業は15%程度しかない」と中村室長補佐は説明する。

世界的に見ると日本では仕事でうつ病になる従業員はさほど多くはない。一方で一度うつ病になった時の影響は大きい。

デンマークの製薬会社、ルンドベック社が日米など世界16カ国で行った「職場でのうつ病に関する意識調査」によると、日本ではうつ病を経験した従業員は10%。最も多い英国の27%や、米国の23%に比べると少ない。日本の調査を担当した国際医療福祉大学の上島国利教授は「医師がはっきり病名を告げず、患者も迫らないので、うつ病の経験者の割合が実際より少なくなっているのではないか」と懸念する。

■サポートが手薄

一方で、うつ病と診断された従業員の73%が休職し、調査した国で最も多い。休職日数も21日以上が30%で最も多く、平均79日と長くなりがちだ。米国は休職する従業員は41%で、最も少ないトルコは28%にとどまる。復帰しても職場でのサポートが手薄なことも、休職が長くなる背景にあるようだ。会社がうつ病になった従業員に対して行っているサポートが十分かを管理職に尋ねた質問では、「非常に良い」とする回答は4%で最も少なく、「よい」と合わせても21%にとどまる。日本の次に少ない韓国でも「非常に良い」と「よい」を合わせて47%あり、日本はこの半分にも届かない。

労働安全衛生法の改正ではストレスチェックの義務化にともない、職場全体のストレス状態のチェックも行うように求めている。職場全体のストレスが高ければ、業務の見直しなど職場環境の改善が必要と考えられるからだ。

ストレスチェックの結果に一喜一憂するのではなく、積極的に自分自身の働き方や職場環境の改善に役立てたい。

(小玉祥司)

〈ひとくちガイド〉
《本》
◆職場でのメンタルヘルス対策を紹介
「ハンドブック 働くもののメンタルヘルス」(働くもののいのちと健康を守る全国センター編、旬報社)
《ホームページ》
◆ストレスチェック義務化の内容を紹介
厚生労働省「ストレスチェック制度」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/)

[日本経済新聞朝刊2015年4月12日付]

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