肝炎検査きちんと受けて 国や自治体、費用を負担受託病院では無料に

重症化すると肝硬変や肝臓がんにつながるB型、C型を中心にした肝炎ウイルス。感染者をいち早く見つけ、早期治療につなげようと企業などが取り組みを進めている。検査はあくまで任意だが、定期健康診断時にあわせて受けるよう促したり、正確な知識を持つよう啓発活動を行ったりしている。国や自治体も検査費用を負担するなど後押し。社会全体で検査を普及させ、患者の削減を目指す。

「4月の健康診断で肝炎ウイルス検査を実施します。希望されない人は後で知らせてください」

電線メーカーのフジクラは3月下旬、入社予定の内定者約50人に実施した入社前オリエンテーションで、肝炎について説明し、検査を受けることを勧めた。10人程度が検査を断ったが、「検査を知ってもらい、いつか受けてもらえればいい」(同社健康経営推進室の浅野健一郎副室長)。

■「生産性も低下」

フジクラは2008、09年の2年間で全社員約2600人に肝炎検査を実施した。10年春からは新入社員の健康診断にあわせて行っている。社員が肝炎ウイルスに感染していても会社で責任を持って治療に協力する態勢を整える。「感染に気づかず症状が悪化すれば労働生産性も低下する」(浅野副室長)。マツダも毎春の新入社員向けの健康診断にあわせて肝炎検査を実施している。

ウイルス性肝炎は1度検査して陰性であれば、その後の感染の恐れは少ない。「早期に発見して治療することが肝臓がん予防につながる」(埼玉医科大病院消化器内科・肝臓内科の持田智診療部長)という。

B、C型のウイルス性肝炎に感染しながら検査を受けていない人は78万人いるとされる。10年には患者の支援や医療体制の充実を柱とする肝炎対策基本法が施行され、国は検査や治療への助成制度を充実させてきた。全国の保健所や自治体の委託を受けた病院では、通常1000~1400円かかる検査を事前予約で無料で行うこともできる。

ただこうした検査で見つかった感染者は13年度にB、C型合わせて4千人強にとどまる。無料で検査を受けられることを知らない人も多く、「企業の健診や人間ドックの際に潜在的な感染者を見つけ出す必要がある」(厚生労働省の鈴木章記肝炎対策推進室長)。

厚労省が11年度に組合健保や共済組合約990団体に実施した調査によると、事業主が行う健診で必ず検査を実施しているのはB型で8.5%、C型は7.5%にとどまる。プライバシーに関わるため、慎重な企業も多い。

ローソンは埼玉医科大病院と協力し、肝炎検査をPRするキャンペーンを展開した

国や自治体は検査を受ける人を増やそうと懸命だ。国内で最も肝臓がん死亡率の高い佐賀県は、健診事業者に肝炎検査を委託し、社員や企業が負担せずに検査を受けられるようにしている。委託先を増やし、13年度の受検者数は9千人と11年度の2倍程度に増えた。「検査を通じてウイルス性肝炎を知る機会にもなっている」(同県健康増進課)。国は、他の自治体でも無料検査を実施する委託病院を増やし、企業に対して健診にあわせて受検を促す考えだ。

経済産業省と東京証券取引所は3月、従業員の健康増進に積極的な上場企業を選ぶ「健康経営銘柄」を発表。評価項目の一つに肝炎ウイルス検査の実施の有無を盛り込んだ。

■コンビニで啓発

ローソンは埼玉医科大病院と協力し、肝炎検査をPRするキャンペーンを展開。13年7月から1年間、埼玉県内の200店で期間を分けてチラシを配ったほか、一部店舗に無料検査コーナーも設けた。「地域の身近な店舗から情報発信をしていきたい」という。

厚労省もウイルス性肝炎についての正しい知識を広めるために企業向けにパンフレットなどを配布。現在は23企業・団体が参加している。

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C型中心に新薬次々 体の負担も少なく

ウイルス性肝炎では検査で陽性と判明しながら、継続して治療していない人が全国に53万人いるとされる。感染の自覚症状がほとんどないことが大きな理由だ。治療を行う場合でも、B型、C型の治療に使う注射薬のインターフェロンは発熱やだるさ、関節痛などの副作用があり、治療に半年~1年程度かかるなど負担が大きい。

最近はC型肝炎を中心に体への負担の少ない新薬の開発も進んでいる。C型肝炎のウイルス遺伝子型は「1a」「1b」「2a」「2b」などに分かれている。昨年9月に米ブリストル・マイヤーズスクイブが発売したのは、日本人に最も多い1b型に効果があるとされインターフェロンを必要としない経口薬だ。

米ギリアド・サイエンシズも1型全般と2型に対応した2種類の経口薬を15年中に発売する予定。治験では、2型向けで3カ月の投与で患者の97%、1型向けでは100%ウイルスを除去できたという。副作用も少なく、働きながら治療を受けることも可能だ。

国はインターフェロンと同様、新薬についても有識者の意見を聞いて公的補助の対象にする考えだ。ただウイルスの遺伝子などを考慮した的確な服用が求められる。

国立国際医療研究センターの溝上雅史・肝炎・免疫研究センター長は「全国に70カ所ある、国が認定した肝疾患診療連携拠点病院の相談窓口で対応する診療所などを探すのもいいのではないか」という。

(後藤宏光)

肝炎ウイルス
A~E型まである。自然にウイルスが体から消える場合もあるが、肝臓に炎症が起こって肝細胞が壊れる肝炎を引き起こすことがある。このうち血液や体液を通じて感染するB型とC型は慢性化しやすく、肝硬変や肝臓がんにつながる。

[日本経済新聞夕刊2015年4月9日付]

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