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岡山・津山の「干し肉」うまみ凝縮 軽く焼いて酒の供に

2015/4/8 日本経済新聞 夕刊

 岡山県北部の津山市。名物と言えば、最近はB級グルメの「津山ホルモンうどん」を挙げる人が多いが、肉料理「干し肉」もお薦めの一品だ。牛肉のブロックを数日間干してうまみを凝縮させたもので、軽く表面を焼いて食べるとおいしい。地元ではスーパーや精肉店に商品が並んでおり食文化として定着しているが、一歩街の外に出るとどこにも置いていない。津山でしか味わえないごちそうだ。

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自家製の干し肉でもてなしてくれる(城下町肉処 櫓)

 そもそも津山は肉の街だ。津山市産業経済部の丸尾勝主任によると、「ほとんど肉牛用に太らせる肥育はしていない」。ブランド牛が地元にあるわけではないとのことだが、牧場では和牛を中心に子牛が育てられ、県内や近隣の兵庫県などに市場を介して出荷されているという。別の県で食べた有名な○○牛は実は津山生まれだ、というようなことがあるのかもしれない。

 JR津山駅から徒歩で10分ほどの商店街にある焼肉店「城下町肉処 櫓」でも干し肉が食べられる。店の裏で作っている自家製の干し肉は酒のお供にぴったりだ。肉と名がつくのに焼き肉メニューでなく、おつまみメニューに入っている。北村暢宏店長(36)は「観光や仕事で津山に来た人が頼むことが多い」と話す。

 牛のもも肉のブロックをもとの大きさの6割ほどに縮むまで乾燥させる。できあがった干し肉を1センチメートルほどの厚さに切り分け、フライパンで焼く。塩だけつけて、ポン酢につけて、といろいろな食べ方があるが、店長のお薦めはマヨネーズ。一味唐辛子や七味唐辛子をマヨネーズにかけると、より牛肉のおいしさが引き立つ。

専用の機械を空調機器メーカーと開発した(幸屋精肉店)

 一口に干し肉と言っても使用する部位の質によって味わいが違う。多くはもも肉を使っているが、赤身部分が多い肉を使うと歯応えがあり、肉の味がしっかりと楽しめる。脂身が多い、いわゆるサシが入った肉を使うと、焼いたときに脂が溶け出し、上等なローストビーフのような味になる。干した期間によって表面の色合いも変わる。好みに合わせて選んでみるとよい。

 作り方もそれぞれだ。市内で精肉店を営む山本商店の代表で津山ミート協同組合理事長の北村啓次氏(63)は伝統的な天日干しにこだわる。梅雨明けや秋口の十分な日照量がある時期には1日、寒い時期には2~3日、太陽の光と自然風に当てる。ステンレス製の網目の細かい板で覆った専用機器を使うので、屋外に出しても虫がよることがない。「天日でしか出せない味がある」と強調する。

津山市内の商店では気軽に手に入れることができる(道の駅 久米の里)

 一方、同じく市内中心部にある幸屋精肉店では特注の送風機を使って製造している。季節や天候による製品の質のばらつきがなくなるのが武器だ。上田進治代表(52)は「外気に当てるより衛生面で優れている。県外の人にも安心して食べてもらえる」と自信を見せる。肉質によって時間は調整するが、おおむね8時間ほど風を当ててつくる。

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 干し肉がいつ頃から食べられてきたかは詳しくわかっていない。ただ北村氏によると、戦前に既に食べられていたようだ。津山では古くから肉食文化があり、農耕用の牛を食肉処理したものを購入した後、食べきれなかった部分を干して保存食として加工していたようだ。長持ちさせるためにしっかりと乾燥させており、いわゆるビーフジャーキーに近かったという。

 かつては庭先などにさお竹を2本立てて縄で結び、その縄に肉を縛り付けて作っていたという。北村氏は「昔の干し肉にはわらくずがよくついていた」と話す。津山では干し肉を「さいぼし」と呼ぶことがあるが、これはさおを使って干した「さおぼし」という言葉が変化したものだ。

 戦後に肉食が広まると精肉店や飲食店がこぞって作るようになった。材料の肉に比べて目方が減るので価格は高くなるが、そこは「津山で肉と言えば牛」というほどの街。精肉店に並ぶ国産牛肉は首都圏や岡山市などと並べても格段に安く、干し肉にしても気軽に食べられる。

 うまみが強い熟成肉やジビエ肉など、一風変わった肉がお好みの方に、干し肉はお薦めだ。時には流行を追わずに地元で長く愛されている食材に目を向けてみるのはいかがだろう。

<マメ知識>牛肉好き、数百年の伝統
 津山は古くから山陰と山陽を結ぶ交通の要所だったため、8世紀には農耕や輸送に使う牛の市が開かれていた。大正、昭和まで市は続き、街中でも牛を追う様子が見られたという。昭和の半ば頃までには牛をつなぐための支柱も散見されたようだ。
 日本では江戸時代、仏教の影響で肉食が禁止されていたが、近江彦根藩(滋賀県)と当時津山を治めていた津山藩だけ、薬として食べる「養生食い」が認められていたようだ。津山の人の牛肉好きは数百年の伝統があるのだ。

(岡山支局 三木田悠)

[日本経済新聞夕刊2015年4月7日付]

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