草木成仏の思想 末木文美士著意図的誤読が開いた世界

2015/4/2付
(サンガ・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という言葉がある。古くから謡曲などで用いられ、古典の愛好者にはしたしまれてきた。もとは仏典にでてくる言葉である。草木のような植物でも、仏になる、成仏するという考えを、それは意味している。

 一神教の世界では、人間と自然がはっきりわけられてきた。だが、東洋の仏教は、自然もうやまう文化をはぐくんでいる。そんな物言いの場で、この言葉はよくひきあいにもちだされる。

 だが、インドや中国の仏典に、こういう文句はない。あるのは、日本だけである。良く聞く「山川(さんせん)草木悉皆成仏」という言いまわしにいたっては、日本の仏典にすらでてこない。近年の造語であるという。

 草木成仏という考えをひねりだしたのは、平安時代の安然という天台の学僧であった。著者は安然の著述によりそい、この特異な観念がつむぎだされた筋道を、ていねいに再現する。そして、それが諸仏典への意図的な誤読にねざしていることを、あばきだす。

 だが、著者はこの曲解がはらむ創造性を、高く評価する。安然があらわした『斟定(しんじょう)草木成仏私記』の現代語訳も、おさめられた。

★★★★

(風俗史家 井上章一)

[日本経済新聞夕刊2015年4月1日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

草木成仏の思想

著者:末木文美士
出版:サンガ
価格:2,160円(税込み)