ファーマゲドン P・リンベリー、I・オークショット著工業化された農業・畜産の問題点

2015/4/1付

農林水産省の統計資料「食料需給表」(2013年)の国民1人・1日当たり供給純食料には「肉類82.3グラム、鶏卵46.1グラム、牛乳及び乳製品243.8グラム、魚介類74.1グラム」とある。これらは国内産・輸入品を合算して消費者に供給されたもので、廃棄分も含むため消費者が実際に摂取した量とは異なる。しかしそれを勘案しても今日の日本において栄養学的には十分な動物性食品が供給されており、これ以上は必要ないだろう。

(野中香方子訳、日経BP社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 食料、特に肉、鶏卵、牛乳、さらには魚等の動物性食品が集約的に生産される現場を2年にわたり取材し、その問題点を多面的に指摘した力作が本書だ。

 「工場式農場」「集約畜産」といった用語が頻出するが、いずれも大量生産のために経済効率を徹底的に追求した食料生産を指す。この工業型食料生産システムは、円満に共存していた家畜と作物とを分断し、土壌を酷使してやせ細らせ、生態系を破壊し、動物だけでなく人々にも不幸をもたらした。「農業がもたらす世界の破滅」、つまり「ファーム+ハルマゲドン=ファーマゲドン」なのだ、という。

 海洋汚染と資源枯渇をもたらす養殖漁業の問題点を知ると、クロマグロの完全養殖成功を単純に喜び、次はウナギだなどと浮かれてはいけないと気づく。大規模畜産(牛、豚、卵養鶏、肉養鶏)についていえば、糞尿(ふんにょう)などの廃棄物が土壌や河川、海洋を汚染し、飼料製造のために広大な大地がトウモロコシ畑と大豆畑と化していくという指摘も深刻だ。おぞましいまでの光景が次々と広がる。

 ただ、動物性食品の生産すべてが本書の指摘どおりではない。畜産生産物の栄養価は飼育方法に大きく依拠すると断定的に書かれてもいるが、疑問に感ずる点もある。肥満は食べ過ぎと運動不足に起因するが、工場式畜産からもたらされる安い肉や卵、牛乳がその原因であるとの論は少々強引に思える。

 日本の食卓にのぼる動物性食品の生産現場はどうか? 国内の畜産・酪農業は本書が取り上げるほど大規模ではないにしろ集約化は進んでいる。輸入品では集約畜産の生産物は少なくないだろう。「糖質が多い穀類は健康の敵」として「糖質制限食」を推奨する人々が本書を読むと、動物性食品に偏る食生活の不自然さに気づくのではないか。ヒトは雑食性の生物である。本書が植物性食品と動物性食品を適度に組み合わせて食べることの重要性を見直すきっかけになることを期待する。

(群馬大学名誉教授 高橋 久仁子)

[日本経済新聞朝刊2015年3月29日付]

ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト

著者:フィリップ・リンベリー, イザベル・オークショット
出版:日経BP社
価格:2,160円(税込み)