経済学者、未来を語る イグナシオ・パラシオス=ウエルタ編気候変動など100年先までの課題 分析

2015/3/30付

経済や生活の場が歴史的な構造変化を遂げつつある今日、未来予測への関心は一段と高まっている。本書は、現時点から100年先までを対象に、世の中の変化、解決を要する課題、想定し難い大きな出来事はどんなことがらか、といった諸点を元全米経済学会会長やノーベル賞受賞者ら優れた業績のある研究者10人の参加を得て取りまとめられた。

(小坂恵理訳、NTT出版・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 長期の未来予測は、現在の傾向や既知のことがらを基に推測する作業では十分ではない。ともすれば全く新しいアイデアに基づくSF的なものとなりがちだが、本書は、これまで生起したことがらの深い分析を足場に未来を推定する作業が中核となっていて、SF的なものとは一線を画す信頼に足る読み物となっている。

 著者の多くが共通して指摘する現象は以下である。(1)気候変動リスクがより深刻になる(2)技術進歩は継続し、経済的豊かさの増大も持続、途上国の人びとの生活水準も今の米国の中流クラスにまで高まる(3)先進国では、生活水準の高まりよりも不平等の拡大が問題視される(4)医療の進歩が健康増進・長寿化をもたらす。一方で、遺伝子操作などからの新たな社会問題や、バクテリアやワクチンの効かないウイルスの登場による感染症のまん延といった事態も発生。

 また、何人かの著者は次の諸点を強調する。(1)政府による良好なガバナンス(統治)と全員参加型の経済運営があって初めて良い成果が得られる(2)政治的な権利や自由の広まりによって技術革新が進展(3)長寿社会の到来とロボット技術の発達は、生活形態を大きく変え、複線型人生設計を可能にする(4)教育水準の全般的な高まりは民主・平和を求める動きを強める。同時に、大量破壊兵器を持つテロリストの登場といった予期しない事態の発生にも留意すべきだ。

 これらの中で突出している事項は気候変動である。この分野が専門のワイツマン氏が、価格メカニズムによる解決はできず、事前的な予防政策の展開は期待できないため、「温暖化ガスが蓄積され続け、ついには、気候変動曲線が閾値(いきち)を超えてしまい、手遅れになる事態もあり得る」と警告している点は重い。

 現在多くの人が取り組む政策、企業経営、生活設計には、先行きの展開をどう見るか、特に現在と未来を橋渡しする移行過程で何が生じるかが大きく関わる。本書は、その道案内として、時代の流れに興味を抱く人々が知的刺激を得る上で、多くを学べる書物となっている。

(学習院大学名誉教授 奥村 洋彦)

[日本経済新聞朝刊2015年3月29日付]

経済学者、未来を語る: 新「わが孫たちの経済的可能性」

著者:
出版:エヌティティ出版
価格:2,376円(税込み)